2019/05/15
【学びの場づくり】学校と地域が連携・協働した授業づくり つながりを生む、「総合的な学習の時間」の学びのデザインとは
2019.05.15 update
小学校では2020年度から、中学校では2021年度から全面実施される新学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」が重視されている。学校が社会とのつながりを踏まえて教育課程を策定し、子どもたちが社会とかかわりながら学ぶことが一層求められることとなった。従来から、「総合的な学習の時間」(以下、総合学習)などで地域と連携した教育活動を行う学校は多くあるが、地域人材の確保や調整、かかわり方など、課題もあるのが現状だ。
「社会に開かれた教育課程」を具現化していくために、学校と地域の協働をどのように進めていけばよいのか。今回は、コーディネーターが学校と地域をつなぎ、両者が協力して行った、姫路市立手柄小学校の総合学習「手柄まちの未来プロジェクト」(6年生対象)を紹介する。
「社会に開かれた教育課程」を具現化していくために、学校と地域の協働をどのように進めていけばよいのか。今回は、コーディネーターが学校と地域をつなぎ、両者が協力して行った、姫路市立手柄小学校の総合学習「手柄まちの未来プロジェクト」(6年生対象)を紹介する。
2017年度「手柄まちの未来プロジェクト」の概要
◎単元目標
「自分たちはどのようなまちの未来を望むのか」について考え、地域の方々にプレゼンテーションすることを通して、地域を担う意識を育むと共に、地域の中でのネットワークを広げる。
「自分たちはどのようなまちの未来を望むのか」について考え、地域の方々にプレゼンテーションすることを通して、地域を担う意識を育むと共に、地域の中でのネットワークを広げる。
◎授業時数
9月〜12月の全16回(「総合的な学習の時間」で授業時数50時間)
9月〜12月の全16回(「総合的な学習の時間」で授業時数50時間)
◎対象
6年生93名
6年生93名
◎コーディネーター
4名
4名
◎授業サポーター
34名(延べ128名)
34名(延べ128名)
◎活動内容
まちで見つけた「面白い」「不思議」と思ったものを撮影する地域資源発掘ワークショップ「ワンダーマッピング」を実施し、コメントなどを加えたパネル(写真を入れる)を作成。それを互いに発表した後、クラスごとに「未来に望むまちの姿」を絵札と読み札にした「手柄まちの未来かるた」を創作した。
まちで見つけた「面白い」「不思議」と思ったものを撮影する地域資源発掘ワークショップ「ワンダーマッピング」を実施し、コメントなどを加えたパネル(写真を入れる)を作成。それを互いに発表した後、クラスごとに「未来に望むまちの姿」を絵札と読み札にした「手柄まちの未来かるた」を創作した。
図1 単元計画
(1)「まちをよりよくしたい」という思いの下、総合学習がスタート
「手柄まちの未来プロジェクト」の企画・運営に携わった中心人物が、姫路市立手柄小学校の三浦一郎先生と、納屋工房代表の長谷川香里さんだ。2人は、姫路市の地域コミュニティーづくりを10年以上推進している長谷川さんが主催したまちづくりセミナー「ひめじまちづくり喫茶」に、三浦先生が参加して知り合った。
三浦先生は、月1回のセミナーに何度も足を運び、地域の人たちと職業や立場を超えてまちづくりについて語り合ううちに、まちづくりに参加する人たちと総合学習での子どもたちの様子に共通点を見いだした。
姫路市立手柄小学校 三浦一郎 教諭
「まちづくりも総合学習も、自分の住むまちをよりよくしたいという思いで活動しています。そこで、地域の人たちと語り合うことで、総合学習をよりよい学びとするヒントが得られると思いました。また、地域の中心人物と知り合ったりすることもできました」
一方、長谷川さんは、三浦先生達が主催する総合学習の研究会に参加し、学校の現状や課題を聞くうちに、地域の人たちが総合学習にかかわることで、子どもが地域に愛着や誇りを持つようになり、それが将来的な地域の担い手を育てると考え、三浦先生に総合学習における連携を提案した。
「今、地域のつながりが単層的になりつつあり、同じ地域に住んでいても知らない人が増えています。授業を通して、さまざまな地域の人がかかわる場をつくることで、同じまちに住んでいてもこれまではなかった新たなつながりを生み出したいと考えました」
三浦先生は、当時持ち上がってきた学年で、4年生では防災と福祉、5年生では環境をテーマにした探究学習を行っており、6年生では、地域そのものに焦点をあてて、総合的にまちについて考える学習にしたいと考えていた。
そうした両者の思いが一致し、学校と地域が連携した総合学習の授業が実現した。
(2)参画する地域の人にも学びがある授業にする
三浦先生ら学校側とチーフコーディネーターの長谷川さんが議論し、単元目標を「私たちはどのようなまちの未来を望むのか」に設定。市役所や卸売市場、手柄山など、校区内の様々な施設を訪れ、子ども一人ひとりが「面白い」「不思議」と気づいたものを「わたしの見つけたワンダー」としてパネルにまとめて発表。それを基にして、クラスごとにまちの未来に望むことをまとめるという単元計画を立てた(最終的な成果物は、のちに「手柄まちの未来かるた」の創作に変更)。
納屋工房 長谷川香里 代表
「学校教育での地域学習では、既に価値あるものとされている史跡や特産品などを扱うことが多くなりがちですが、今回は、子どもが自分の視点で面白いもの、不思議なものを見つけるという自由な発想を引き出す活動にしたのが、学校としてはチャレンジでした」(三浦先生)
学校と地域、両方の視点で授業づくりを行ったのも大きな特徴だ(図2)。それは、長谷川さんからの問いかけがきっかけだったと、三浦先生は語る。
「『学校は、協力してくださる地域の方々にとっての学びについては考えていませんよね』と長谷川さんから指摘されて、はっとさせられました。子どもの学びの視点でしか地域との関係を捉えおらず、教えてもらうことばかりを考えていました」
図2 対象とした実践の概要(学校視点と地域視点)
総合学習を共に学ぶ場として、子どもと地域それぞれに学びがある活動としよう。そうしたコンセプトの下、地域の人たちの授業へのかかわり方を、従来のような「ゲストティーチャー」ではなく、「授業サポーター」とした。
「『ゲスト』では一時的なかかわりであり、『ティーチャー』という呼び方も、子どもに教えられる特別な知識・技能がないといけないのではないかという気持ちにさせてしまいます。しかし、この授業では、地域の人たちに実践者の1人として参画してもらい、単元目標を共有し、地域の担い手の育成について考え、共に学び、子どもたちや他の授業サポーターとの関係を構築する場にしようと考えました」(長谷川さん)
そうしたプロジェクトのコンセプトは、学校としては初めてのことであった。しかし、この取り組みが、姫路市が地域の課題などに取り組む市民団体を支援する「姫路市提案型協働事業」に採択されたことが後押しとなり、校長や教員からも賛同を得て、具体的な授業づくりが進められた。
(3)継続して参加しやすいよう、かかわり方を任せる
授業サポーターは、長谷川さんが築いてきたネットワークを活用して、校区の連合自治会長や公民館館長に協力を依頼して募集。また、PTA会長を通して保護者からも募った。応募者には8時間のサポーター研修を実施し、単元目標と全体計画を説明し、活動内容として、子どもとのかかわるスタンスや、安全確保の方法などを伝えた。
「授業サポーターからは『子どもたちに何を教えたらよいですか』と質問されましたが、『何も教えなくていいです。ただ子どものそばにいて、子どもの相談に乗ったり、感想を伝えたりしてください』と伝えました。子どもたちの学びのサポート役として、地域の魅力を伝えて共有して、地域の担い手を育てるというスタンスでかかわってもらえればと考えました」(長谷川さん)
全16回の授業には当初は原則8割以上参加としていたが、実施時にはできる範囲で参加可とした。ハードルを下げ、まずは参加してもらい、主体的に子どもとかかわってもらいたいと考えたからだ。ただ、継続して参加したくなる工夫として、授業サポーターに1回でも参加した人には、毎回、次の授業の案内とともに、前回の授業の様子をまとめてメールで配信した。参加できなかった時もどのような活動が行われたのかが分かるようにし、ブランクがあっても参加しやすいようにした。
また、毎回、授業後には、授業サポーター同士の振り返りの時間を30分程度設けた。「子どもが悩んでいる時に、どうかかわればよいか迷った」「実は、私たちがどうかかわってくるかをよく見ている」など、学んだこと、気づいたことを整理し、自身がプロジェクトにかかわる意味を見いだせるようにした。
すると、20代〜70代の34名、延べ128名が参加。最多で10回という参加も5名おり、1回平均8〜9名という状況となった。
授業サポーターは、子どもたちの柔軟な発想や潜在能力に触れて刺激を受けたり、新たなまちの魅力に気づかされたりと、当初のねらいであった、かかわる側の学びを得ていた。ただ、初めは、どのように子どもたちと接すればよいか戸惑いがあったという。
「子どもの学びの支援と見守りという役割はありましたが、そのかかわり方は任されていたので、どう振る舞えばよいか、正直、分からずにいました」
そう振り返るのは、一般財団法人姫路市まちづくり振興機構の緑化推進部の円山賢治さんだ。円山さんが所属する緑化推進部は、手柄小学校の隣にある手柄山中央公園に事務所を置き、花や緑の相談を受けたり、緑化のイベントを主催したりと、まちの緑化事業に従事している。同僚の竹垣内加奈さんが、長谷川さんらのプロジェクトを知った市の職員から紹介されて、ともに参加した。
姫路市まちづくり振興機構 緑化推進部 円山 賢治さん
「私たちの事務所は学校の近くにあり、子ども向けの教材も制作していますが、学校に直接かかわることはほとんどありませんでした。授業サポーターとなることで、子どもたちに私たちの活動を知ってもらい、子どもの目線でまちの緑の魅力を発見してほしいと思いました」(竹垣内さん)
そうした課題意識から授業サポーターとなった2人は、参加を重ねて、子どもたちと顔見知りとなるうちに、学校を訪れるのが楽しみになっていたという。
「子どもがまちの魅力を発見し、表現する姿を見て、子どもの視点を初めて知りました。また、自分の言葉が、どう受け止められて、次にどうつながっていくのか気になりました。完成形が決まっていなかったからこそ、最後まで見届けたかったのだと思います」(円山さん)
子どもたちは、そうした授業サポーターの存在を肯定的に受け止めていたようだ。
「子どもたちは、授業サポーターから『面白いね』『すごい発想!』と声をかけられて、自信を持っていました。『へえ』『ほお』といった感嘆の声も、貴重な他者からの評価になっていました」(三浦先生)
(4)学校と地域の持続的な関係が、「社会に開かれた教育課程」につながる
3か月間のプロジェクトを振り返って、三浦先生と長谷川さんが最も大きな成果に挙げるのは、一過性ではない地域とのつながりが子ども・学校・地域に築かれたことだ。
「最後にかるたづくりをした時の子どもたちは、今までお世話になった人たちに、自分たちの思いを伝えたいという熱い思いで満ちあふれていました。プロジェクトを行った6年生は卒業してかなり時間が経ちますが、授業サポーターの方とまちで会ってあいさつをしたという報告が、今もあります。学校教育内に留まらない地域社会との結びつきが、子どもたちの大きな財産になると感じています」(三浦先生)
子どもへのアンケートでは、「地域の再発見につながった」「サポーターの○○さんのようになりたい」といった感想が寄せられており、保護者でも教員でもない、授業サポーターが継続的にかかわることで、社会の多様性を感じる場となったことがうかがえる。
円山さんと竹垣内さんは、サポーターを体験することで学校の様子や総合学習の内容を知り、自身の課題と関連させて、新たに環境をテーマにした総合学習のプログラムを考案し、学校に提案した。学校はそれを快諾し、両者が協働で単元計画を作成。2018年度、3年生の環境学習で実施した。
「授業サポーターとして継続して学校を訪れることで、学校の状況を知ることができ、さらに、先生や保護者、地域の方とも相談し合える関係ができました。以前は、子どもたちに緑化について関心を持ってもらいたいと思っても、どうすればよいか分かりませんでしたが、その機会が訪れたのです。この関係を次に生かしたしたいという思いが、私たち自身の意識を変え、新しい取り組みにつながりました」(竹垣内さん)
姫路市まちづくり振興機構 緑化推進部 竹垣内 加奈さん
プロジェクトを担当した6年生の教員たちは、当初、それまでとは違う地域との距離感に戸惑いが見られたが、子どもたちの生き生きした様子に、地域と協働し、持続的にかかわっていく授業のよさを実感していった。そうした様子が他学年にも伝わり、円山さんと竹垣内さんの提案もすんなり受け入れられたという。
このように、地域と学校が協働関係を築くことで、授業づくりのノウハウを学校だけが抱え込むのではなく、地域との共有につながり、教員の異動があっても、持続的な教育活動が可能となるといえる。
手柄小学校の取り組みは、学校と地域、双方の学びを豊かにすることで、それぞれが気づきを得て、自分の課題と結びつけ、次の新たな取り組みへと展開した。
「地域の課題も知り、学校の状況も知っているコーディネーターは、両者の最初の結びつきをつくるために重要な役割を果たせると考えています。地域の中に学校がある。そういう思いで、学校にかかわっていきたいと思っています」(長谷川さん)
「ある先輩が、『子どもたちはまちの後継ぎだ』と言われていました。教員が地域に足を運び、地域の方々と直接関係を結んでいきながら、総合学習にとどまらず、様々な教育活動において、まちの跡継ぎを育んでいくことが今後の課題です」(三浦先生)
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