子どもの留学先にシンガポールが人気の理由とは?費用やメリット・デメリットを、留学生の保護者に聞いてみた
- 教育動向
グローバル化が進む将来に備え、我が子を海外に留学させたいと考えているご家庭も多いことでしょう。しかし、新型コロナウィルスの流行により、海外留学の選択が難しくなっています。そんな状況下でも、日本人の留学先として人気を集めているのがシンガポールです。
いま、なぜシンガポール留学が人気なのでしょうか。
今回は、現在シンガポールに留学中のお子さんをもつ保護者のかたと、シンガポール留学のサポートを行っているCulture Connection(カルコネ)代表の岡部優子さんに、お話を伺いました。
お話を聞いたのは……
Aさん (14歳・長男が2020年10月から単身留学中)
Bさん (12歳・長男&8歳・次男と2019年4月から母子留学中)
カルコネ代表 岡部優子さん
海外留学先にシンガポールが注目されている理由とは?
近年、めざましい経済発展を遂げているシンガポールは、教育水準も世界トップクラス。メリットが多いこともあり、日本だけでなく、近隣のアジアや欧米からも留学生が集まっているそうです。
【シンガポール留学のメリット】
・教育水準が世界トップクラス
・英語と中国語が同時に学べる
・人種が多様でグローバルな視点が身に付く
・街がきれいで、治安もいい
・日本と近い(時差が1時間)
・医療体制が安心(日系の病院もある)
・国際バカロレア認定校が多く、海外の大学に進学しやすい
多くの民族が暮らすシンガポールでは、公用語の英語だけでなく、中国語や他の言語と接する機会も多くなります。語学力がつくだけでなく、グローバルな経験も得られるというのは大きなメリットです。
また、ほとんどのインターナショナルスクールで世界共通の国際バカロレアのカリキュラムを採用。高校卒業後は日本だけでなく海外の大学にも進学しやすくなります。
留学生ママのAさんとBさんは、なぜシンガポールを選ばれたのでしょうか。
「旅行で訪れた際に、現地在住の友人家族から教育事情や学校環境を聞き、生きていくうえで重要な力が自然と養える環境だと思いました。挫折や苦労もあるでしょうが、中学生の単身留学という希少性が大きな経験となり、自己決断に対する自信や自己効力感のプラスになるかなと思ってます。また、安心安全で清潔、欧米に比べて費用が安いのもメリットだと感じます」(Aさん)
「最優先条件を安全と英語にしたので、シンガポール以外の選択肢はありませんでした。英語を学ぶことで多角的な視点を身につけられること、友達などを通して異なる文化や常識を知ることができると思います。英語だけでなく、第三言語の習得により、大学も仕事も選択の幅が広がると考えます」(Bさん)
シンガポールのインターナショナルスクール事情に詳しい岡部さんによると、 「一つの学校に50ヵ国のお子さんが集まっているところも多くある」とのこと。
学校内がまさに世界の縮図のようです。最先端の教育が受けられると同時に、ダイバーシティを肌で感じられる環境であることは間違いなさそうです。
シンガポールはどんな国?
近代的な都市と豊かな自然に恵まれたシンガポールは、観光スポットも多く旅行先としても人気です。日本との外交上の問題もなく、両国の関係が良好というのも安心して留学させられるポイントです。
シンガポール留学のデメリットは?
シンガポールにも留学を迷う理由となり得るデメリットはあります。
【シンガポール留学のデメリット】
・物価が高い
・英語にシンガポール独特の訛り(シングリッシュ)がある
・日本人が多い
欧米より割安とはいえ、アジア周辺諸国と比べると物価が高いというのもデメリットの一つ。物価は常に上昇しており、それに伴い学費も上がっています。日用品も日本製の場合だと、1.5〜2倍ほど。ただし、ローカルのものに頼れば、外食も食材も日本と同等または安く手に入れられます。
また、シングリッシュといわれるシンガポール訛りの英語を気にされるかたが多いのも事実。ただし、アジア訛りの英語に関しては、インターナショナルスクールには欧米系の先生も多く、また、前出のように欧米人を含め多くの国からの生徒が通っており、学校生活がシングリッシュということにはならないようです。
日本人が3万人以上いるため、友達も日本人ばかりになってしまうというデメリットもあり、「予想以上に日本人が多く常に群れているようなので、違う学校への転校も考えています」(Bさん)という意見も。ただ、この点も「むしろセーフティネットワークとしてはメリット。週末の遊び友達を作れたりして、日本人がある程度いることで助けられています」(Aさん)という意見もあり、子どもを単身留学させる場合には、治安面でのメリットになるとも考えられます。外国人の友達が欲しい場合は、日本人の少ない学校を選ぶといいかもしれません。
コロナ禍でも留学先に選ばれるシンガポール
世界的に流行している新型コロナウィルスにおいても、シンガポールの感染者は少なく、封じ込めに成功している国として評価されています。
母子留学中のBさんは、アプリによって政府から厳しく管理されていることが逆に安心につながっているといいます。
「国民だけでなく、外国人も、マスクの配布やワクチン投与を無料で享受できます。感染への恐怖も早々に払拭されました」
そしてAさんはまさにコロナ禍の2020年10月から息子さんを留学させています。
「世界の中でも感染者が少なく、安心な国という認知があったため留学させました。息子も濃厚接触者となり隔離生活を1週間体験しましたが、迅速に国と寮とケアギバーさんが連携し、移動や生活を手配サポートしてくれたので全く心配ありませんでした」
コロナ禍でも学生ビザは取得可能
また、他国では発行停止となっている学生ビザが、シンガポールでは発行されているのも留学生が増えている理由の一つといえます。
「現在、就労ビザはビザ取得の最低賃金も年々上がり取りにくくなっていますが、学生ビザは問題なく発行され、入国も順次許可されています。また、学校も通常授業が行われており、きちんと通学して対面授業が受けられます。コロナ禍になってむしろ留学希望者が増えています」(岡部さん)
長期留学は、中学1年生からが最も多い
では、留学を始めるのは何歳ぐらいがいいのでしょうか。
岡部さんによると、中学1年生のタイミングでの留学が一番多いとのこと。
高校生からは、ハイレベルな教育水準にあわせて求められる英語力も高いため、勉強が難しくなる前に留学させるほうがいいという事情もあるようです。
「留学当初は、長男(10歳)にとっては遅すぎで、次男(6歳)の時期がベストだと思っていましたが、2年近く経ってみると、日本語のバックグラウンドのある長男の方が英語の成長スピードも速く、理解度も深いと思います」(Bさん)
日本人としてのアイデンティティが形成され、自分の将来を自身で決断できる中学生からの留学は、ベストなタイミングなのかもしれません。
留学するには最低でもどれくらいの学力、語学力が必要?
シンガポールに留学する際、どのぐらいの語学力があればいいのでしょうか。
「中学生ぐらいになると、ライティングはもちろん、考えをまとめる力、英語でアウトプットするところまでは当然のごとく求められます」(岡部さん)
日本にいながらそこまでの語学力を身につけるのはなかなか難しいかもしれませんが、多様性を受け入れる寛容な国民性もあり、語学力がない子どもでもそこまで不安に思うことはないようです。
「多国籍でいろんな子がいて当たり前という環境なので、訛っている英語をしゃべる子、文法が間違っている子がいても周りは受け入れてくれます。日本の学校に馴染めなくて急に海外留学を決め、英語力がないまま来るかたもいらっしゃいます」(岡部さん)
AさんBさんのお子さんも、語学力がネイティブレベルではない状態で留学されたそうです。
【Aさんの子どもの場合】
・小学校5年生時に父親と1か月セブ島に短期留学
・留学校を受験するための試験勉強は特にせず
・留学試験に合格した後、英語塾(文法)+フィリピン英会話(週4回)
「学校への自己紹介や志望動機などはエッセイで書き出しました。セブ島の短期留学の効果でリスニングができるようになっていたので、面接試験やリスニングテストがうまくいったと思います」
【Bさんの子どもの場合】
・語学を学んだのは留学直前の2か月間
・留学校を受験するための試験勉強は特にせず
「小学生のころから文法・読解の英語だけでなく、会話レベルのヒアリングとスピーキング力はあるといいかと思います。正解のない問いに対して自分の解を持つことも重要です。算数は、英語がわからなくても文章問題以外は解けるため、自信を持てる教科として大事だと思います」
最近ではZoomなどを利用したオンラインの英会話や家庭教師のサービスも増え、日本にいながら海外在住の先生から英語を学ぶことも可能になっています。留学前に語学力をつけられると同時に、英語で授業を受けるトレーニングにもなりそうです。
もうひとつ気になるのが、親の語学力。学校からの連絡などはすべて英語になるので、まったく英語ができないというのでは苦労するかもしれません。語学力に自信のない親が子どもを留学させる場合は、現地の情報に詳しいエージェントなどを利用するといいでしょう。
実際に掛かる留学費用は?
シンガポールに留学する際の費用を、全寮制の単身留学、親子留学、ホームステイ留学、それぞれのパターンで見てみましょう。
【単身留学(Aさんの場合)】
年間600万円
※留学前の準備費用として、保険やパソコンなど含めて100万円弱
「留学で語学は全て賄えると思っていましたが、実際には、授業の補講のような形で家庭教師をつけている人、塾に行っている人も多いです。息子も現在月6回の家庭教師と週末はバスケットクラブを利用。こうした学校外費用が月10万円ほどかかるのは予想外でした」
【親子留学(Bさんの場合)】
年間830万円
※留学前の準備費用として、コーディネーター費、学校見学のための渡航費など含めて約140万円
「選ぶ学校とコンドミニアムにより初期費用がかかります。日本と比較して安価なのは、光熱費、公共交通機関、タクシーなど。コンドミニアム内のプールやジムなどは無料で使えます」
【ホームステイ留学】
年間500万円~
「ホームステイは月15万円前後で食事つき。こちらのホームステイは大きな一軒家に10~15人ぐらいの留学生がいて、小規模の寮みたいな感じです」(岡部さん)
最低でも1人500万円~
学費もアジアにしては高額、物価が高いため、習い事や生活費も高くなります。中学生からの留学でもネイティブと同等の英語力に早く追いつくことが求められるため、習い事を全くしないという方が珍しいとのこと。その他いろいろ含め、比較的学費の安価な学校を選んでも、最低でも単身留学で1人500万円は必要に。費用が一番安く抑えられるのは、全寮制の学校への単身留学。ただし全寮制は数百人規模の集団生活になるので、手厚いケアを望むかたはホームステイが良さそうです。親子留学の場合は、費用がかなりあがります。
シンガポールのおすすめインターナショナルスクール
シンガポールには数十校のインターナショナルスクールがあり、学校ごとの特色もさまざまです。子どもの学力はもちろん、将来の進路のこと、学ぶ環境や学費など、総合的に判断して留学先を選ぶ必要があります。ほとんどの学校がオンラインで学校見学を行っており、コロナ禍で下見に行けなくても学校生活の雰囲気を知ることができます。
【ローカル系インターの中高一貫の人気校】
ACS international
https://www.acsinternational.edu.sg/en/home-7/
学費:年間約210万円
「アジア各国から富裕層の子女が集まる留学生の多い学校です。学費も安価、教育面もしっかりしていること、母語としての日本語のIDBP科目もあります。英語が母語でない生徒に対してのサポートクラスもあります。日本から受験する際の目安として、英語で数学問題が解けること、英語サポートクラスでも、小学校6年生で英検2級レベルが必要です」
【教育レベルの高い世界的なグループ校】
UWC South East Asia
https://www.uwcsea.edu.sg
学費:年間約370万円
「どの学年でもネイティブレベルの英語力を求められるため、日本から直接の入学は難度が高いですが、人気のある学校です。世界中のグループ校の中でも、シンガポール校は生徒数も断然多く他国校とは別格の充実度。日本では求められないレベルの多国籍な環境が魅力です。長年通うための学校として入学される生徒が多く、駐在員が多い当地でも生徒の入れ替わりが少ないことも、大きな利点といえます」
【多国籍な環境で学べる老舗インター】
Canadian International School
https://www.cis.edu.sg/
学費:年間約320万円
「カナディアンという名前ながら、多国籍な環境で、高学年の勉強にも強いインターナショナルスクールです。中1、中2の学年でも入学が望めるのも特長です。英語サポートのファウンデーションコース(留学生のための大学進学準備コース)も質が良く、メインコースへの橋渡しとしてうまく機能している印象です。1990年に創立された古くからある老舗の学校として、安定感が大きいと思います」
※学費は中学1年生のもの。寮費は含みません。
取材協力:Culture Connection カルコネ http://cultureconnectltd.com/
シンガポールのインターナショナルスクール20校以上と正規エージェント契約を締結。1500件を超える相談経験と、豊富なインター校入学の実績、留学サポート経験を持つ。バイリンガルスタッフが、学校選びの相談から、勉強の相談、ビザ申請や入学手続きの代行まで、一括サポートを行う。
出典
外務省 シンガポール基礎データより https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/data.html
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