先生の数の増減に「科学的根拠」って……?‐渡辺敦司‐

子どもを勉強させるためにはご褒美で釣っても「よい」、子どもをほめて育てては「いけない」、ゲームをしても暴力的には「ならない」……こんな発見を科学的に明らかにしたとする本(中室牧子著『「学力」の経済学』)が18万部を超えるベストセラーになり、雑誌でも特集されるなど、話題を集めています。そして、今や単に子育てや教育の話題にとどまらない気配です。科学的根拠(エビデンス)ということが今後の国の教育政策に、ますます影響を与えそうだからです。

政策づくりに根拠が必要なことは、もちろん教育だけの話ではありません。税収不足が課題となっている現在、限りある財源を有効に活用して、効果的な政策を打っていく姿勢が、ますます求められます。政府も経済・財政の一体改革(外部のPDFにリンク)の中で、「重要業績評価指標」(KPI)という考え方を打ち出し、計画的に改革を進めるために政策を徹底して「見える化」することを検討しています。
この中で、教育に関しては、「少子化の進展を踏まえた教職員定数の見通し、エビデンスに基づくPDCAの構築」を重点課題とし、公立小・中学校の先生の数を決める教職員定数の充実を求める際には、エビデンスを示すよう提案。「教職員定数の在り方については、エビデンスに基づく費用効果分析の下で政策判断すべき」だという意見も紹介しています。

教職員定数の在り方ということで思い起こされるのが、以前の記事で紹介した、今春に財務省と文部科学省の間で繰り広げられた論争です。文科省が毎年要求してきた「教職員定数改善計画」に対抗して、財務省は教育の充実のために充ててきた加配定数も児童生徒減に伴って減らせるとする「定数合理化計画」(外部のPDFにリンク)を対置しました。この時に財務省が出してきたのが「標準学級当たり加配定数」という指標で、これを根拠として、機械的に4,200人余りの加配定数が減らせると主張しています。これに文科省が猛反発したこともあり、合理化計画が政府の「骨太の方針」(外部のPDFにリンク)に盛り込まれることはありませんでした。しかし財務省はこの方針を基本的に断念せず、10月に行われた財政制度等審議会の分科会に、新たな計算で3,771人の加配定数を削減することを再提案(外部のPDFにリンク)しています。

教育におけるエビデンスといえば、文科省も、学力低下や教職員定数の在り方が論議されたことをきっかけに、2007(平成19)年度から全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)を開始しました。ここで示されたエビデンスを、どう使うかが重要です。各学校の指導改善に生かすはもとより、成績不振に甘んじざるを得ない不利な状況に置かれている学校や自治体を支援するためのデータとして活用することが求められますが、その点では必ずしも十分とは言えません。一方で、文科省と財務省の論争に見られたように、別々の基準でエビデンスを出すだけでは、いつまでたっても合意形成はできません。

本当に教育をよくするには、示されたエビデンスが本当に正当な根拠になっているか、徹底的な検証も必要でしょう。その機運が盛り上がっているかというと、はなはだ心もとない気がしてなりません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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