急速に進む国立大学の再編 定員削減や教職大学院の新設‐斎藤剛史‐

文部科学省がまとめた2016(平成28)年度「国立大学の入学定員」によると、15大学が教員養成系学部の定員削減を行うほか、人文社会科学系学部の再編や定員削減などに踏み切る予定の大学もあることがわかりました。一方で、教員の指導力向上などのための教職大学院は、一挙に18大学が新たに設置する予定です。国立大学の学部などの再編が、いよいよ本格化してきたと見られます。

当コーナーでは以前に、文科省が国立大学に対して教員養成系学部や人文社会科学系学部の廃止・見直しなどを求める通知を出し、大学関係者を中心に批判が巻き起こっていることなどをお伝えしました。これについて下村博文文科相(当時)は、「誤解を与える表現であった」と述べ、廃止を求めたのは教員養成系学部の一部であり、人文社会科学系学部を軽視しているわけではないと釈明しています。しかし、人文社会科学系学部の再編を求めるという方針は変えていません。実際、2016(平成28)年度の国立大学の学部・学科などの再編状況を見ると、多くの国立大学が文科省通知に沿った見直しに着手し始めたようです。

まず教員養成系学部では、文科省通知で実質的に「廃止」を求められている、いわゆるゼロ免課程(教員以外の進路を目指す課程)について、2016(平成28)年度から岩手大学や千葉大学など15大学が募集停止にします。これによって削減される入学定員は15大学で合計1,112人に上り、削減分はほかの教員養成課程や理工系学部などの定員増に回されることになっています。「ゼロ免課程」の廃止は今後も続くことが確実で、これにより教育学部などの国立大学の教員養成系学部は、完全に教員志望者のための学部となりそうです。
人文社会科学系学部では地域社会の要請などに応えるため、弘前大学が人文学部を「人文社会科学部」に、信州大学が経済学部を「経法学部」に、高知大学が人文学部を「人文社会科学部」に、それぞれ改組することにしています。

学部自体はそのままでも、学科再編という形で、人文社会科学系学部の改革を進める大学もあります。たとえば千葉大学や東京大学は、文学部の複数ある学科を「人文学科」にまとめます。徳島大学は総合科学部の3つの学科を「社会総合科学科」にまとめて入学定員を265人から170人に削減します。愛媛大学も、法文学部の学科を「人文社会学科」に統合し、入学定員を505人から365人に引き下げます。一方、理工系学部・学科の再編を実施する大学もありますが、こちらは入学定員を増やすところが多いのが特徴です。

このほか、教員の指導力向上のため大学院でより実践的な教育を行う教職大学院は、これまで国私立合計で27校しかありませんでした。しかし2016(平成28)年度は、岩手・秋田・茨城・埼玉・千葉・新潟・富山・金沢・信州・和歌山・島根・広島・山口・香川・愛媛・佐賀・大分・琉球の18大学が教職大学院を設置する予定です。

人文社会科学系学部を中心とした国立大学の再編は、今後もさらに加速することが予想されます。大学志望者やその保護者は、その動向に十分注意しておくことが必要でしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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