体と言葉で音を探す 表現を広げる音楽の授業
ご紹介するのは、静岡県の高校の芸術科で電子オルガンを教えるAP先生の授業です。生徒たちは、楽譜があれば、正確に演奏できます。しかし、「自由に表現してみて!」と言うととまどってしまうそうです。
そこで、AP先生は、自分の気持ちを自由に音で表現するコツをつかむためのトレーニングを行います。感じたことを、心に問いかけて、一番響いたものを見つけて、表現してみる。先生は「『自分を出す自信持つ』きっかけになれば」と言っていました。
今回、先生が示したテーマは「自然を見て感じた気持ち」。
まず、生徒たちと一緒に近くの公園に出かけ、表現したいことを探すことから授業をスタートさせました。
思い思いに心を動かされたモノを絵に表していきます。
青空、川の流れ、木漏れ日、割れたドングリ、水の流れ、必死に泳ぐ魚など……。
スケッチしたあとは、それを言葉にしてみます。「ゆったりした時間」「自然の力」「命の躍動」など……。言葉にすることで、自分が感じたことをはっきりさせていきます。
次に、その絵や言葉を五線譜に図や形で表してから、描いたその線に合わせて音符を書き入れます。それから、その音符を手がかりに、自分が求める音を探っていくのです。イメージと音を結びつけさせる方法だそうです。
この時、先生は、悩んでいる生徒一人ひとりの側に寄り添い続けていました。生徒が書いたイメージを聞き出し、絵や音符を手がかりに、体と言葉でいろいろ表現しながら、ピッタリくるものを探す手助けをします。
生徒自身のイメージがはっきりしないので、先生の感性・想像力・知識量が試されます。そして、生徒が「それ!」と言うまで、自分の「引き出し」を探し続けなければなりません。
自分なりの音探しが一段落したところで、ペア学習です。
作った音を友達に聞いてもらい、イメージが伝わるかどうかを判断してもらうのです。
最近、表現手法を教える時、相手の意識を大事にするのは、当たり前のように行われていることですが、その中で、友達同士のペア学習は、効果的な手法のひとつです。理由は、友達同士の言葉のほうが、共通項が多いので、先生が言うより、イメージが伝わりやすいのです。
さらに、この時、ただ感想を言うのではなく、「いいね」「要改善」をはっきりジャッジすることを伝えておくと、より効果があります。アドバイスする生徒も言いたいことが言いやすくなるだけでなく、ジャッジすることで、自分のイメージに自然と気付くようになるからです。
友達同士でアドバイスをしあったあと、先生は、さまざまな表現手法を伝えました。
音の高さ、和音、強弱、音を重ねることなどの音の使い方を、生徒の演奏に先生が付け加え、モデルパターンを見せることで、表現の幅や深みを出す方法を体感させていきます。
今回の授業を取材して、AP先生の教師としてのモットーに改めて共感しました。
「生徒より努力する」
当たり前かもしれませんが、導く側に立った時、忘れてはいけないことだなと思いました。