体を動かし、汗を流す数学の授業[こんな先生に教えてほしい]

全国のとびっきりの授業を伝える「わくわく授業~わたしの教え方~」(放送:日曜午後7時・NHK教育テレビ)や「NHKデジタル教材」という授業で使っていただくための番組やWebを制作するために、これまで、たくさんの授業を見て、多くの先生方からお話をうかがってきました。そのなかで「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

このテーマで書かせていただく14回目です。今回は、岐阜県の中学2年生に行ったN先生の数学の授業です。
この授業を一言で表すと「体を動かし汗を流して、図形を理解」。
言葉を換えれば、「意外な組み合わせ」を生かした授業というのが印象です。
この「意外性」は、中学生の興味や関心を高め、集中力の維持を図るのに重要な要素となります。先生方の多くは、当然知っているのですが、実現しようとするとなかなかハードルが高いようです。
それをN先生は、授業のさまざまな場面で用意しています。
今回は、「体を動かす」と「図形」という結び付けづらい二つのキーワードをコラボレーションさせました。

授業は、「図形のまとめ」です。
N先生が、まず、古代エジプト文明の象徴「ピラミッド」の写真を提示しました。
「数学の授業なのに、ピラミッド!?」。いきなりの「意外性」に、生徒は、思わず引き込まれていきます。
 
初めの課題は、「ピラミッドがどんな形で成り立っているか」その見取り図を書くというものです。ピラミッドは、三角形の4つの面と土台の正方形の1面でできています。

さて次に、先生は、ピラミッドの土台が正確な「正方形」でできていることに注目させ、古代エジプト人は、どうやって「直角=90度」をはじき出したのかと問いかけました。当時の人々が使ったのは、1本のひもだけです。
生徒たちは、定規やコンパスを使わずに、1本のひもだけを使って正確な正方形作りに挑戦します。
「印を付けてもいいですか」。生徒たちから出た声です。
カメラは「さすが! いいところに気づいた!」と言いたくなるのをN先生がぐっとこらえている表情を逃しませんでした。
そうです。「ひもに印を付ける」ということこそ、この授業が次のステージに入るためのキーワードなのです。
すかさず、先生は「どのように印を付ければいい?」と聞きます。ヒントは、「1本のひもで、正三角形も正方形も作れるように印を付ける」です。

わかりますか?
答えは、12です。
4等分と3等分のところに印をつけます。すると12等分することができます。

この12の印ができたところで、N先生は、12という数字の「不思議なパワー」に目を向けさせます。
12は暦や時計、星座、干支など、古くから世界中で人々の暮らしと深く結びついてきた数字です。
「数学のロマン」を伝え、「別の視点から数学を見る」ことを目指しているN先生らしい内容です。

等間隔の12の印がついたひもを使って、簡単に正三角形や正方形を作る方法を、生徒たちはグループで話し合いながら見つけていきました。

まず、正三角形を作ります。
12の印を4・4・4に分け、頂点となる3カ所をつかんでピンと張ると簡単にできます。

次は、直角三角形です。すぐに正方形作りにいかないところがポイントです。
目盛りを、3・4・5に分けて引っ張ると、直角三角形ができます。これは、三平方の定理(ピタゴラスの定理)で証明できます。N先生は、ここで、改めて三平方の定理を、生徒と一緒に確かめました。

そして、いよいよ正方形です。
直角三角形の直角の部分の頂点だけ固定して、三角形を変形させます。4辺の長さを同じにすると、正方形ができます。
さらに、生徒たちは、正六角形などにも挑戦しました。

授業の最後は、全員が体操着に着替えて、外に出ました。
グラウンドいっぱいに大きな図形を描くのです。そのために、N先生は、48メートルのひもを用意していました。教室で学んで、正三角形や正方形のほか、前方後円墳といった形を、汗をかいて描くのです。
生徒たちは、描き終えると全員で校舎の屋上に上りました。グラウンドには、力を合わせて描いた図形がいっぱいに広がっていました。
「うわあ!」「すごい!」
そう叫んだ生徒たちの声が印象的です。

意外性にあふれる授業を受けた、生徒の感想です。
「知っていたら、挑戦ができる。なんとかなると思った」
「自分で考えてみたいと思うようになった」
こんな知的好奇心を刺激される授業を受けてみたいと改めて思いました。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

子育て・教育Q&A