所変われば育て方も変わる? 発見! 世界の子育て【第1回】子どもを犯罪から守るには~ロンドン編
楽しいことも、悩みや気がかりも多い「子育て」「教育」。日本とはちょっと違う、ほかの国の子育て事情に触れながら、日本の、そして自分の子育て・教育をちょっと見直してみませんか。
このコーナーでは、いろいろな国や地域の子育て・教育について紹介します。日本とは歴史も文化も慣習も違う海外の情報は、そのまま取り入れられないかもしれませんが、いろいろな方法や考え方を知ることで、子育てに対しての気持ちが少し楽になったり、自分に合った方法にアレンジしたり……というような形で役立てていただければと思います。1回目の今回は子どもを犯罪から守る方法について紹介します。
子育てや子どもの教育で気がかりなことは多いと思いますが、最も気がかりなもののひとつに「犯罪や事故に巻き込まれること」が挙げられます。実際に、2011(平成23)年のベネッセコーポレーションによる保護者調査(外部のPDFにリンク)では、小・中学生のどの学年の結果でもトップか上位になっています。
日本以外の国では、子どもを犯罪から守るための安全管理はどのように行われているのでしょうか。今回は、私がこの春まで1年間住んでいたイギリス、特にロンドンの例を紹介します。
ロンドンで朝夕目につくのは、日本とは違う子どもの登下校風景です。日本なら子どもだけで登下校するのが普通ですが、ロンドンでは小学生くらいまでは保護者やそれに代わる大人が送迎することが義務付けられています。もちろん、保護者だけでは難しい場合もあるので、近所の友人に代理での送迎を頼んだり、チャイルドマインダーを雇ったりしている家庭もあるようです。子ども一人での留守番も違法ではありませんが、空き巣や強盗の被害など、家にいても犯罪に巻き込まれる確率が日本よりも高いと言われているロンドンでは危険。何かあったときは、子どもを一人で留守番させた保護者が子どもを虐待したということで、罪に問われることもあるそうです。万が一、自分の子どもが事件に巻き込まれたら、それどころではありませんが。
日本で「登下校は必ず保護者が付き添う」となったら大変でしょうが、子どもが巻き込まれる事件の多さを見ると、やはりなんらかの形で大人が見守るしくみを作らないといけないのかもしれないと感じます。保護者だけでは限界があるので、地域挙げての協力が必要ですね。
ところで、我が家は娘が既に高校生なので、ロンドンでの生活も登下校の付き添いなどは必要ありませんでしたが、言葉の通じない環境で、一人だけでの片道1時間半の電車通学には、娘本人も親の私たちも不安を持っていました。日本の安全感覚とイギリスのそれとの違いもまだわからなかったので、その点も不安でした。
電車と言えば、ロンドンでは地下鉄やバスなどで使える「オイスターカード」というものがあり(日本ではJR東日本のSUICAのようなもの)、子どもや学生は写真つきのZIP Photo cardというものを作ればバスは無料、電車も大幅な割引料金で利用できます。電車通学にあたり、このカードを作ったとき、カードと一緒に子ども向けの手紙が送られてきました。その中には、Young Person’s Behaviour Code(子ども向けの行動規範のようなもの)が書かれていて、電車に乗る時のマナーはもちろん、電車内で巻き込まれる犯罪から身を守るための注意事項が書かれていました(子ども自身にも「犯罪を起こさないように」とも)。
たとえば、日本ではついつい大人もやってしまいますが、「携帯電話やスマートフォン、デジタルカメラなどの高価なデジタル機器を電車の中で取り出して使ってはいけない」と書いてあります。ロンドンでは最近スマートフォンなどの盗難や略奪が多いので、持っている物自体が狙われることはもちろんですが、そういった高価なものをいくつも持っている子どもはお金持ちの子どもということで誘拐などの犯罪に巻き込まれるリスクが高まる、とのこと。娘も通学中は気を付けていたようですが、日本でも気を付けたいですね。
また、ロンドンの私立小学校を訪問した際、高学年の教室に掲示されていた時間割を見ると「PSHE」という見慣れない教科がありました。先生に伺ってみると、Personal, Social and Health Educationの略とのこと。直訳すれば個人・社会・健康に関する教育ということでさまざまな教育内容が含まれるそうですが、多くの学校で薬物教育を取り上げているそうです。薬物教育を小学生からというと、日本人の感覚ではちょっと早いのではと思ってしまいますが、ロンドンでは家族連れや中高生が多く訪れる場所でもドラッグが販売され、子どもたちも声をかけられます。日本でも危険ドラッグなどが簡単に手に入る環境になりつつあり、薬物犯罪に未成年の子どもが巻き込まれる事件が増えてきているようです。子ども自身が自分の身に迫る危険やそこから逃れる方法についての知識をある程度持つことは、今の日本の教育にもより必要になってきているのではないかと思います。
次回は、子どもが小さい時期は悩むかたも多い食事のしつけについて取り上げます。お楽しみに。