学校では今 【第9回】学校不適応への対応は?~「しなやかさ」と「したたかさ」がカギ‐小泉和義‐

夏休みまであと数週間。新たな目標を見つけたり、仲の良いクラスメートができたりして、学校に行くのが楽しくなった子どもたちはたくさんいると思います。一方で、やる気が出なかったり、クラスになじめなかったりして、学校に行くのがいやになってしまう子どもたちもいます。
今回は、学校に行くのがいやになってしまった子どもたちに対し、学校がどう向き合っているのかをお伝えしたいと思います。




学校の先生との情報共有が不可欠

「学校不適応」とは、一般的には、病気や経済的な理由以外で不登校になってしまうケース、不登校まではいかないが、学校に行きたくなくなってしまうケース、校内暴力などの行動に出てしまうケースなどを言い、小学校から中学1年生に進級する際に学校不適応になるケースが最も多いようです。「学校不適応」の原因はさまざまですが、小学生では、友達との関係や家庭での親子関係がうまくいかないことが代表的な原因のようです。学校ではそうした実態に対して、大きくふたつの方法で対応しています。

ひとつは、実際に学校不適応を起こしてしまった子どもへの対応です。不登校になったり、学校に来ることができても自分の教室に行けなかったりするなど、問題と背景はケースごとに異なります。学校では、問題の解決を担任任せにせず、学年主任・学年団・管理職に加え、養護教諭や学校カウンセラーなどがチームとなって対応するようにしています。

また、不適応の原因の一つに、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)などの発達障害が挙げられます。障害の有無を見分けるには専門的な知識が必要です。たとえば、ADHDの症状のなかにある「なかなか片づけられない」「先生の言ったことをすぐに忘れてしまう」など、障害によるものなのか、指導で改善できるものなのかを見分けることは、とても難しいのです。そのため、ADHDの障害のある子どもが、先生から「なんでできないの?」「さっき言ったばかりでしょ」などと言われることが多くなり、自尊感情を維持していくことができずに学校不適応を起こしてしまうケースもあるようです。また、障害があるとわかったとしても、子ども本人にいつ「障害の有無」を自覚させるべきなのか、そのタイミングを決めるのはとてもデリケートな問題です。

学校では、発達障害の児童生徒に適切な対応ができるよう、専門的な知識を学び始めていますが、まだまだ十分とは言えない状況です。保護者もそうした状況を理解したうえで、学校任せにせず、学校の先生と連携し、情報を共有しながら、子どもの成長を見守りサポートしていくことが大事だと思います。



「聞く態度」と「話す態度」を育てる

もうひとつは、子どもたちが学校不適応を起こさないための手立てとして、「コミュニケーション」の力を身に付けさせることです。多くの学校では、授業の中に「相手の話をしっかりと聞く」時間と「自分の意見をしっかりと主張する」時間を意識的に設けています。だれかが発表している時には、発表をしている人のほうを向いて話を聞くように指導をします。また、発表をさせる場合は、言いたいことだけではなくその理由や根拠をセットで発表するように指導しています。
「聞く態度」と「話す態度」を指導することで、子どもたちが周囲の声を受け止め、臨機応変に対応する「しなやかさ」と、同時に、周囲の声に流されることなく、自分の言いたいことをはっきりと言える「したたかさ」も育てることで、子どもに自信をつけさせ、その結果として、学校不適応を起こさずに学校での充実した集団生活を送ってほしいと考えているのです。

ますますコミュニケーションの力が必要となるこれからの社会。社会で不適応を起こさないためにも、学校生活だけではなく、家庭の中でも「しなやかさ」や「したたかさ」を育てたいものです。きょうだいげんかや親子げんかになったときこそ、その力を育てる絶好のチャンスかもしれません。


プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

子育て・教育Q&A