運動でハードな勉強に耐えられる体力をつける!

前回、運動が脳の活性化につながることに触れましたが、今回は運動が学力アップと共に強い体力や精神力を養うために効果的であるということについて、お話ししていきたいと思います。

皆さんは、古代ローマ時代の賢人、アリストテレスやプラトンが、筋骨隆々の身体をしていたということをご存じでしょうか? その時代は、まさに知徳体の3つが同等に大切なものとされていて、ひ弱な人間の言うことには、誰も耳を傾けなかったのです。従って、学問に秀でた人達は、勉強と同様に運動によって身体を鍛えていました。「そんな、いきなり遠い昔の話を聞かされても……」と思っているかたもいらっしゃると思います。しかし、このことは現代社会においても非常に大切なことになってきているのです。


ますます知力と体力が求められる時代へ

たとえば日本の外交官の人達の例を紹介しましょう。彼らは海外の大きな身体をした人達と、夜を徹した外交上の交渉をしなければなりません。徹夜の交渉では、体力をつけておかないと精神的に負けてしまい、重要な案件について、日本の意見を強く通すことができなくなってしまうということです。つまり、厳しい交渉を続けるための強い精神力を保つために、体力が必要ということですね。

外交官の人達に会うと、がっしりとした頑丈そうな身体つきの人が多いことに驚かされます。古代ローマの賢人と同じく、日頃から身体を鍛え、厳しい交渉に備えているのです。
そして外交官に限らず、グローバル化が進んでいくこれからの社会では、海外の企業とのビジネスのやりとりも多くなっていきます。
社会に出て、バリバリやっていくためには、知力と同様に、より体力が求められる時代になってきている、と言えるでしょう。


ハードな勉強に耐えられる体力をつける!

ここで、さらに「社会に出てからのことなんて、そんな先のことは……」と思った保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。しかし、皆さんが現在直面されている、または近い将来直面する、受験勉強においても同じことなのです。

近年、各校の独自性が顕著になり、入試の多様化が進んできていることは、皆さんもご存じのことと思います。簡単に言うと、受験勉強がますますハードになってきているということですね。
受験勉強がハードになってきているということは、受験勉強に、以前より体力が大きく関わってくる、ということです。

小学生の保護者の方々の中には、「とりあえず受験が終わって、中学校に入ったら運動させればいいのでは」と考えているかたも多いかと思います。しかし、第1回で述べたように、運動に慣れる(巧みさを獲得する)のに最も適した時期は、小学生時代までのゴールデンエージの期間です。もちろん、この時期は、筋力を鍛える時期ではありませんが、このゴールデンエージに、≪運動に慣れて巧みさを獲得して≫おけば、成長するにつれて、楽しく運動を続けられるようになり、結果として体力のある大人へと成長していきます。小さい時からの積み重ねは、すぐに成果としては見えないかもしれませんが、あとあと、その差が大きくなって現れるのです。


「行動体力」と「防衛体力」をつけることで、勉強の効果が上がる!

巧みさや筋力・持久力などをまとめて「行動体力」。そして、身体に無理が利いて、ハードな勉強にも耐えられる体力は「防衛体力」と呼ばれます。この「行動体力」と「防衛体力」を養うことが、大学受験というさらにハードな受験勉強、そして社会人になってからの厳しい仕事に好影響を与えることは言うまでもありません。

「受験があるから、今は勉強第一で」と、運動させることに、ついつい不安を感じてしまう気持ちはわかります。しかし、保護者の方々には、目先の受験に惑わされずに、お子さんの成長を長い目で見てあげていただきたいと思います。お子さんの将来を考えたら、勉強だけでなく、適度な運動を続けることで、「防衛体力」をつけることが、必ず、お子さんの幸せにつながるのです。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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