先生の質向上、地方は採用前に「教師塾」

政府の教育再生会議では先生の質をどう向上させるかが課題として浮上していますが、各地では、より実践的な指導力をもった教員を採用するために、教員志望者を対象にした「教師塾」を開設する教育委員会が増えています。全国で初めて東京都教委が2004年4月に、教員志望者を対象にした「東京教師養成塾」を開設したのを皮切りに、東京都杉並区、同三鷹市、京都市、横浜市などでも導入されているほか、大阪府なども近い将来に向けての実施を検討しています。教員の指導力向上に対する社会的要請、団塊の世代の大量退職に伴う教員志願者の確保などを背景に、指導力向上のために教員志望者に対して自前の養成をおこなう教委は、今後も増えていくでしょう。

東京都教委の「東京教師養成塾」(定員100人)は、小学校教員志望の大学4年生を対象に1年間の実践的なトレーニングを実施しています。内容は、現職教員などによる学校現場の実態を踏まえた実践的講義、実際の小学校現場で40日以上の実習などです。京都市教委が今年9月から開設した「京都教師塾」(定員300人)は、小・中学校教員志望の大学生や社会人を対象に、ほぼ1年間にわたり月1、2回の実践講座や年間10日間の学校現場での実践研修などをすることになっています。また、横浜市教委が来年1月から開設する「よこはま教師塾」(定員100人)は、「ヤンキー先生」こと義家弘介同市教育委員を塾長に迎え、小学校教員志望の大学生・社会人を対象に子どもたちとの実際の触れ合いのなかで指導力を身に付けてもらうことを狙っています。

これら教師塾の特徴は、京都市を除いて塾修了者は教員採用試験で「特別選考枠」となり、ほぼ確実に正規教員として採用されることです。このため、各教師塾の入塾試験には多くの志願者が殺到し、高倍率の「狭き門」となっています。要するに、優秀な学生や社会人を教師塾に集め、実践的な教師教育をほどこしてから教員として正式採用するというのが、教師塾の仕組みです。

一方、注目されるのは市区町村でも教師塾の取り組みが始まっていることです。市区町村(政令指定都市を除く)は、これまで正規の教員を自分たちで採用することはできませんでした。ところが、今年3月に構造改革特区の取り組みの一部を全国化する法律が成立し、2007年度から教員給与を全額負担することを条件に区市町村による正規教員の独自採用ができることになりました。

この法律改正を見越して、いち早く取り組んだのが東京都杉並区教委で、今年4月から杉並区立小学校の教員を志望する大学生・社会人を対象にした「杉並師範館」(定員30人程度)を設置しています。同様に東京都三鷹市教委は、地元の大学などと連携して「みたか教師力養成講座」を今年11月に開設し、小・中学校教員志望の大学生に講義や特別教育実習を行う予定です。三鷹市教委は、公立小中一貫校を全市的に設置することにしており、養成講座の修了者はそこの教員として採用されることになりそうです。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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