思春期の沈黙を決めつけない 待って、観察して、聞いて、なんとなく見えたこと

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「我が子が何を考えているのかわからない」と悩む保護者のかたは少なくないようです。
新聞記者として多くの若者への取材経験があり、公立中学校で出前授業を実践してきた原田朱美さんによると「10代に取材をしていると、思春期の沈黙には、いろんな意味があると気付かされる」とのこと。沈黙している子どもには、どう声をかけるとよいのでしょうか。
 原田さんご自身のことばで、記者としての体験をもとに、沈黙する子どもに対してどんなふうに話を聞くのがよいかをご紹介いただきます。
(以下より、原田朱美さんによる文章です。)

この記事のポイント

取材もやはり思春期は難しい

 取材で思春期の10代と話す時、質問を投げた後、沈黙が続くことは珍しくない。この時、一番の難しさは「沈黙の理由がわからない」ことだなと思う。悩んでいるのか、怒っているのか、関心がないのか、推し量ることは難しい。本人もうまく整理できていない場合、他人が理解するのはほぼ不可能だ。

 という話をベネッセの担当者にしたところ、思春期の沈黙は、世の親御さんがまさにお悩みのことでもあるという。反抗期という3文字で納得しようにも、「親の思いはちゃんと伝わっているのか」と不安が尽きないのだと。

 そもそも思春期の心なんて、専門家でもない私にわかるはずもない。とはいえ、じっと観察していると、手がかりのようなものが見えてくる(気がする)。そして、意外とこたえてくれる聞き方もある(気がする)。

10秒の沈黙を待つ

 先日、都内の公立中学校で、中学3年の生徒たちの悩みを聞く機会があった。ある女子生徒の悩みは「やらなければならないことが多くて、やりたいことをやる時間がない」だった。

 私が「じゃあ、やりたいことは何ですか?」と聞くと、体感で10秒の間があった。
 試しに数えてみてほしいのだが、沈黙が数秒続くと、聞き手は不安になる。耐えきれずに話を変えるか、「Aなの? またはBなの?」と結論を迎えにいってしまう。ぐっとこらえて「返事はゆっくりでいいよ」と伝えると、彼女はコクンとうなずいて、じっと考え続けていた。

 パニックになっている様子はない。目が泳いでいない。むしろ一点を見つめて、言葉を探しているように見えた。聞き手としては、困られたり、不快に思われたりしていない場合、こういう時は、待つことにしている。

 そして彼女は、おもむろに一言ずつ話し始めた。出てきた言葉は、何度も何度も自分で確かめた後のような、とてもしっかりした内容だった。

 彼女はその後も、私が質問する度に、たっぷり考え込んでから口を開いた。
 彼女を見て、私が勝手に推測したのは、以下のようなことだ。
 ・慣れない相手、または緊張する相手には不用意に口を開かない?
 ・脳内に深くて大きな思考のプールがあって、しっくりくる言葉を探すのに時間がかかる?
 ・「自分はこう考える」という芯が強く、違和感ある言葉で自分を表現したくない?

うまく話せないのは、ダメなことなのか

 大人なら、やりたいことを答えるだけで、なぜ沈黙するのかわからないかもしれない。でも多分、本人のなかでは、うかつに口を開くと失われる何かがあるのだろう。他人からはわからない、強いこだわりがあっても、本人はそれを説明できないし、その場をうまくやり過ごす術もまだない。

 彼女だけではないが、思春期の子と話していると、心の真ん中の、やわらかい部分に直接つながったような言葉が出てくる。心の真ん中にない言葉を使うくらいなら、沈黙する子もいる。適当にお茶を濁す言葉は、自分を偽ったような気がするのだろうか。

 後で先生から「彼女はうまく話せないことが悩みなんです」とうかがった。聞かれたことにぱっと返せないのはダメだと、周囲の大人からも言われていたらしい。

 私は「彼女の場合は、深く考えているからすぐには出てこないのでは。それはすごい才能じゃないですか?」とお話しした。先生はそのまま彼女に伝えてくださったようで、「本人がとても喜んでいます」とご連絡をいただいた。きっと、沈黙でいろんな誤解を受けていたのだろう。

感想文で雄弁な子どもたち

 この中学校では、3年生全員に出前授業をさせてもらった。この学校だけではないが、話している間、基本的に反応は薄い。すべっていないか、いつもヒヤヒヤする。でも後日いただいた約80人分の感想文を読むと、彼ら・彼女らは驚くほど雄弁だ。枠の中に書ききれなくて、横の空白にまで書いている子もいた(授業のテーマが「大人はなぜ矛盾したことを言うのか」だったからかもしれない)。

 ・いろんな感情が同時にあって、もやもやする
 ・わかってもらえる気がしないから、諦めている
 ・自分のことを決めつけられて、むかついている
 ・自分の考えを言った後、否定されるのが怖い
 ・考えていることはあるが、自信が無い

 感想文から浮かんで見えたのは、こんな思いだった。「本当は家族や先生に言いたい内容だけれど、ここに書いたんだなあ」というものも少なくなかった。
 過去何十人と10代に話を聞いてきたが、彼ら・彼女らの沈黙は本当に多様だなと思う。

思春期に沈黙されたら使う質問

 ちなみに、今までの取材で一番途方に暮れたのは、男子高校生の取材で、すべての発言が「別に」「普通」「微妙」だった時だ。
 そもそも言葉での表現がうまくできない子に、無理に聞いてはいけないが、「言いたいけれど、上手く言えない」という場合、個人的には以下のような質問をよく使う。

<好き嫌いを聞く>

 大人も子どもも関係ないのだが、好き・嫌いはわりとわかりやすく感情が動くところなので、聞きやすい。本人の価値観も表れやすい。たとえば、なんだか不満そうな場合は、「いま何が一番嫌?」と聞いてみる。「そんなところに引っかかってたのね!」と予想外の言葉が返ってきて面白い。
 返事がイエス・ノーになる質問をクローズド・クエスチョンというが、「○○が不満なんでしょう?」と決めうちで聞くと、「違うけれど、わかってもらえないからいいや」と諦められてしまうことがある。返事の自由度が高いオープン・クエスチョンを心がけている。
 ちなみに、本人にも好き・嫌いがよくわからない時は、「プラスマイナス、喜怒哀楽、いろいろあるけど、どのへんの感情が近い?」と選択肢を並べてみる。

<「具体的に」と「なんで」>

 好き・嫌いを聞いて、意味不明な答えが返ってくることも、ままある。そういう時は、「具体的に」と「なんで」を聞いてみる。もし返事が「微妙」と2文字だったとしても、「具体的に微妙って思った場面を教えて」と聞くと、「○○の時に……」と返ってくる。そして「○○が微妙なのってなんでだと思う?」と聞くと、もう少し手がかりを教えてくれる。これを繰り返すと、「つまり、こういう時に嫌なんだね?」という気持ちが立体的に見えてくる。

まとめ & 実践 TIPS

 私の場合、取材という形式で話を聞いているし、子どもたちにとっても、私が他人だからこそ言えることがある。
「好き嫌いを聞く」と「『具体的に』と『なんで』」は、取材でよく使う方法だが、自分の家族には、家族だからこそ、「わかってよ」という感情が先走ってしまうものだ。ここまで偉そうに書いておいて何なのだが、いま私のプライベートの目標は、「いったん自分が黙る」だ。


書籍紹介

記事中に出てきた原田さんの出前授業のことが掲載されている本はこちらです。
ぜひ親子でこの本を開いてみてください。

岩波ジュニアスタートブックス
『ミライを生きる君たちへの特別授業』(ジュニスタ編集部編)
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いじめや友達関係の悩み、将来への不安、生きづらさを抱える10代のために。
原田朱美さんの他、俳優の春名風花さん、元アイドルで作家の大木亜希子さん、写真家の安田菜津紀さん、エッセイスト・タレントの小島慶子さんが本気で中高生たちに語りかけます。
(岩波書店刊)

プロフィール

原田朱美

朝日新聞朝デジ事業センター員。社会部記者として若者や教育、貧困、マイノリティーの取材を担当し、ニュースサイト「朝日新聞デジタル」「withnews」で記事を執筆。津田塾大学非常勤講師として「信頼できる情報を自分で集めて書く」をテーマに講義を担当している。

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