「早くしなさい」を言いすぎて疲れていませんか。親子のコミュニケーションで知っておきたい、たったひとつのこと[ぬまっち先生]

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ステイホームにより親子で過ごす時間が長くなり、関係が深まるとともに、ときには衝突することも……。“自己主張期”真っ只中の子どもとスムーズなコミュニケーションを取るには、「子どもは見通しが持てていないことを理解する必要がある」と、アクティブ・ラーニング型の指導法で人気のカリスマ教師・ぬまっち先生(東京学芸大学附属世田谷小学校教諭)は言います。では、見通しが持てない子どもと対話するために、親が知っておきたい心構えとはどのようなものなのでしょうか。

この記事のポイント

「反抗期」は親都合の言葉。子どもの自己主張と向き合うコツとは

いまはおうちで過ごす時間が増えたことをきっかけに、家族の距離がすごく近付いていますよね。学校が休校になっていても、家族で一緒にいる時間が長くなって楽しいと思える親子関係が理想ですが、中には親子のコミュニケーションがうまくいかないというかたもいらっしゃるかと思います。親子のコミュニケーションの取り方のポイントは、まず、子どもは自分と違う人だと気付くことです。
お母さんはとくにそうなのですが、どうしても自分から生まれてくる子どもだから分身みたいに考えてしまいます。それは当然だと思います。しかし、100%同じ遺伝子でもないですし、食や服の趣味だってなんだって違ってきます。親子でズレがでてきた時に、「親に対して反抗するなんて」といちいち衝突していたら、歯車がどんどん狂ってしまいます。

そもそも、「反抗期」という言葉は、親都合の言葉なんです。ボクは「反抗期」という言葉には反対です。親が優位に立って命令しようとするから、反抗と思うんです。実は子どもたちは自己主張を繰り返しているだけ。自己主張しているのを反抗期だといって押さえつけますが、その子が大人になったら今度は逆に「自己主張もできないのか」と言う。おかしくないですか。

小さい子どものイヤイヤ期も同じで、自己主張ができるようになったというだけの話。なのに、親が提案したことに対して「イヤイヤ」って言ったら、「この子イヤイヤ期で困っちゃう」とか言っちゃって。子どもは単に、自分の主張をしているだけですから、「オレオレ期」に入ったと思えばいい。子どもが一生懸命主張しているのに、反抗期だ、イヤイヤ期だって親都合の言葉にしてしまうのは、納得がいきません。ボクは「反抗期」という言葉を「自己主張期」に、「イヤイヤ期」を「オレオレ期」という言葉に本気で変えたいと思っています。

親子の主張をしっかりぶつけ合いディスカッションを

では、自己主張期の子どもに対してどうしたらいいか。子どもが何か言ってきたら、「なるほど、あなたの主張はそうなのね」「でも私はこう思うよ」「じゃあこうしたらいいんじゃない」と、相手のやりたいことを理解して、こっちのやりたいこととの妥協点を探す。その結果、お互いがうれしくなるということもあるので、要は気持ちの持ち方だと思うんですよね。
ここでちょっと気をつけたいのは、相手の言うことを100%聞くというのではないということです。「あなたの言いたいことはわかりました。でも親としてはこういう主張があります。どうしましょう」という、お互いの主張をしっかりぶつけ合うことが大事です。主張と主張をぶつければ、それはディスカッションになります。

見通しが持てない子どもに「早くしなさい」は無駄

もちろん、親と子で、尊敬されるべき、尊敬するべきことはあるのですが、ディスカッションをするという意味に対しては、どちらかが優位な関係にあるとうまくいきません。その最たる言葉が、「早くしなさい」です。
なぜ、親が「早くしなさい」と言っても子どもたちが反応しないかというと、見通しが持てないからなんです。「早く宿題をしなさい」と言う親は、今日の就寝時間、お風呂やご飯に何分かかるかがわかっているから、早く宿題をしておきなさいよってことなのですが、子どもからしたら、なんでいま早くなのか、まったくわからないわけです。だから、この見通しを子ども自身に立てさせればいいんです。一緒に考えてみるのもいいかもしれないですね。たとえば、算数の宿題を早くやりなさいと言いたいとき、「あなたはこれとこれをやらなきゃいけないけど、何にどのぐらい時間がかかると思う?」「それなら算数の宿題はいつする?」と聞いてみるとか。そういうのを一つひとつ考えさせて、自分で理解していけば、「自分ごと化」できるんです。子どもたちの普段の時間は自分でコントロールしているものではなく、お母さんにコントロールされている時間だからわからないんです。
もしくは、親が「早くしなさい」と言いながら、「この子、絶対わかってないだろうな」「でも私はいま、早くしなさいしか言えなかった」って自分自身でわかっていれば、イラつかないし、次の二の手、三の手が打てます。「早くしなさいって言っているのになんでこの子動かないの」って思い始めると、イライラが積もっていきます。一方通行の命令だとどうしてもイライラしますが、残念ながらお母さんが持っている見通しを子どもはまったく理解していないので、「早くしなさい」は無駄なのです。

経験を積んで見通しを持てるように

みなさんに知っていただくきっかけになった「ダンシング掃除」(編集部注:掃除の時間に音楽を流し、サビになると掃除をやめて一斉にダンスを踊る掃除法。集中して効率的に掃除が終えられるという。テレビ番組などで多く取り上げられ話題に)も、もともとはダンシングしていなかったし、面白いからやり始めたわけでもありません。要は、時間管理です。「掃除の時間は何分まで」と言っても見通しが持てない子どもに、曲が終わるまでに掃除をするように言っただけなのです。音楽は耳から入ってくるのですごくわかりやすくてボクはよく使っているのですが、ある年の1年生の着替えのテーマには、星野源の『ドラえもん』を流していました。「何分までに着替えろ」と言っても伝わらないけれど、曲だったら、「やばい、もう2番になっちゃった。急げ」ってわかるじゃないですか。この『ドラえもん』の着替えは、後々保護者のかたからの感謝の手紙が続出しまして。家でも朝起きて『ドラえもん』をかけておけば勝手に着替えるようになったそうです。

見通しがない子どもは、調理実習の時にも大勢いますよ。電子レンジが動いている間、ずっと眺めているとか。でも保護者レベルになると電子レンジの中なんて見ないし、その隙にお皿を洗ったりしますよね。それが見通しです。子どもはそういう経験を積んでいかないとできるようになりません。ボクだって見通しなんてまったく持てませんでしたよ。電子レンジを眺めて60秒からカウントダウンしていましたから(笑)。経験を積んだいまは、少しは見通しを持って行動できるようにはなりましたが……。

親子のコミュニケーションで大事なのは、保護者のかたの気持ちの持ちようだと思います。反抗期、イヤイヤ期と思っていると、イラッとして揉めますが、自己主張期・オレオレ期だと思っていれば、対応できる気がしませんか? 気の持ち方を変えていけば、たくさんの方法を学ばなくても、きっちり対応ができるんです。「早くしなさい」と言いながら、「この子、見通し持てていないだろうな」と思って次の対応を考えていきましょう。

まとめ & 実践 TIPS

ついつい「早くしなさい」と言ってしまっていたかたも多くいらっしゃると思います。しかし、見通しが持てていない子どもに対しては無駄な言葉だったようですね。ぬまっち先生のアドバイスを心に留め、親子でしっかりと主張をぶつけ合いながら、よりよいコミュニケーションを取っていきたいところです。

取材・文/井上加織

プロフィール

沼田晶弘

沼田晶弘 (ぬまっち先生)

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学ぶ。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題となり、テレビをはじめとしたメディアへの出演や講演も行う。著書に、『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬社)『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)『「変」なクラスが世界を変える! 』(中央公論新社)『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)『自由研究できたえる!! ホンモノの考察力』(イースト・プレス、監修) 、『One and Only~自分史上最高になる』(東洋館出版)『自分で伸びる小学生の育て方』(KADOKAWA)など多数。

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