速報! 2016年度 首都圏中学入試の傾向と分析【第3回】算数

2016(平成28)年度の首都圏中学入試にはどんな傾向が見られ、どんな力が問われたのでしょうか。
森上教育研究所主催のセミナー「平成28年度首都圏中学入試の結果と分析」での、悠遊塾主宰の金廣志先生による「算数」の分析をお届けします。

  • ※以下は同セミナーでの金廣志先生による分析を抄録したものです。

■問題傾向の変化 難化したのか?

今年度の算数入試問題を見て、2016年の算数入試問題は、何年後かには中学入試のターニングポイントだったと言われることになるだろう、と強く感じました。

男子の最難関校のうち、開成中・麻布中・駒場東邦中・聖光学院中・栄光学園中・浅野中のデータを分析すると、大きく難化したことがわかります。多くの学校で、前年度との得点差が10点以上あり、受験者の平均点は50%を割りました。合格者の平均点も50%台前半にとどまっています。また、桐朋中・芝中・城北中など、いわゆる2番手校も大きく難化しており、今年度は、近年まれに見る難しい入試だったことがうかがえます。

ただし、千葉の難関校(渋谷教育学園幕張中・市川中など)は、昨年度大きく難化したため、本年度は平均点が大幅に上がりました。女子の難関校(豊島岡女子学園中・白百合学園中・学習院女子中など)も昨年度難化したため、その反動か、今年度は易化しています。

また、ここ数年問題のレベルを極端に上げた学校(昨年度は早稲田実業学校中・渋谷教育学園幕張中・早稲田中など)がありましたが、そうした学校は、今年度は非常に易しくなりました。

算数の入試問題の難易には隔年現象が見られ、問題が大きく難化(平均点が50%を割る)した翌年は易化し、問題が大きく易化(平均点が70%以上になった)した翌年は難化する傾向にあります。

本年の入試問題自体は比較的手が付けやすいものが多く見られました。特に開成中の問題は、5年生であっても十分解答できる特別な知識やテクニックを必要としない問題だったといえます。このような、基礎・基本という原点に帰った問題が多かったのが今年度の特徴です。しかし、全体として平均点は下がっています。なぜでしょうか? 

原因として考えられるのは、問題文の文章が長く、問いの条件が多い問題(聖光学院中・開成中・桜蔭中など)が目立ったことです。そのため問題を整理することに時間がかかってしまい、最後まで解答することができず、平均点が下がったのかもしれません。

問題文の読解力や条件整理力を必要とするこうした問題の変化を見ると、将来大学入試の新テストで要求されることに対して、私立中学校なりの答えを模索・提示しているようにも見えます。

■どんな問題が出されたか……具体例を分析

それでは、実際の問題を見てみましょう。

算数の問題は主に、「新傾向問題」「他校の問題の模倣」「定番化しつつあると考えられる問題」について分析しました。男子最難関校(開成中・麻布中・駒場東邦中・聖光学院中・筑波大学附属駒場中など)では、意欲的に新しい問題を提案する傾向が見られます。一方で、中堅校や付属校で出題される問題は、実はあまり変わっていません。これらの学校では、今後も従来の問題傾向が続いていくでしょう。

●手作業を効率よくやるための下準備が大切

麻布中では、一見平面図形に見えるが、立体的な視点が必要になる図形の問題が出されました。これを解くためには、手作業を効率よくやるための下準備(道具づくり)が大切です。また、図形を、正面だけではなく、横や上から見る方法を取り入れねばなりません。

開成中で出された図形問題は、見た目には難しそうですが、誘導が丁寧で、正答できるものでした。ただし、最後の大問だったため、ここまでたどり着けなかった可能性があります。こうした、後ろのほうの大問のうちでも、最初のほうの小問(1)や(2)などは、手作業をすれば、解答できるはずです。大問すべてではなく、半分答えられればよいので、挑戦しましょう。

●感覚的に試行錯誤して考えさせる問題

武蔵中の大問4は、パズルゲームを知っているほうが有利だったかもしれません。論理的に考えると時間がかかるので、感覚的に試行錯誤したほうが解法への近道だったのではないでしょうか。新テストを意識したものでしょうか、解答も一通りではなく、複数の解答がありました。

●「問題の区分けのしかた」に気付けるか

筑波大学附属駒場中で出されたのは、手作業をして、「問題の区分けのしかた」に気付けるか……という問題でした。三角形の内側に点を打っていき、いくつ三角形ができるかを考えさせます。「ドーナツ部分」の三角形と中央の「穴部分」の三角形を区分けすることでルールが推測できるという面白い問題です。こうした問題はまた出題されることでしょう。

●高校レベルの知識……「約数の個数と因数の関係」「約数の和」

昨年度のセミナーでは「約数の個数と因数の関係」を知っているのが前提になってきているようだと指摘しましたが、駒場東邦中の今年の問題を見ると、「約数の和」の知識も必要になってきたように感じます。「約数の個数と因数の関係」「約数の和」は、どちらも本来は高校の数IIで教わるべきものです。しかし、こうした「天下り」の問題は、1月校や2番手校で出されがちなので、今後も注意しておかなければならないでしょう。なお、今年も約数や素因数分解の問題は、渋谷教育学園渋谷中・吉祥女子中・淑徳与野中など多くの学校で出題されました。

●定番化した「モンモールの数(封筒問題)」

栄東中では、「モンモールの数(封筒とりちがえ問題)」が出題されました。例年、「f(3)=2、f(4)=9、f(5)=44」は、暗記しておくと便利だとお話ししていますが、今年はとうとう漸化式(ぜんかしき)まで出てきました。正答率はとても低かったと思います。モンモール数は定番化した(過去に、慶応普通部・渋谷教育学園幕張中・武蔵中・巣鴨中などで出題された)ので、知っているか、知らないかが影響してくるといえます。

穎明館中の場合の数(区画の問題)では、計算をすべきなのか、手作業をすべきなのか迷うかもしれません。しかし、場合の数は手作業をすることで条件を整理していくことが大切です。

■今後の学習では「基礎・基本」「手作業」を大事に

本年入試の男子難関校における大幅な平均点の低下について、さまざまな原因を考えてみましたが、受験生の学力低下ということも考えられます。私なりに考えられることは、塾のテキストが難化して、学習が消化しきれないために、学力が身に付かない傾向にあるのではないかということです。このことは学習の方向性についても考えさせられます。

今後の学習対策として大切なことは、やはり、基礎・基本という原点に帰ることでしょう。「基礎・基本」とは、規則を丁寧に書き出す、条件をきちんと整理する、計算にたよらず手作業をしっかりする、場合分けのさまざまな手法を学ぶ……など一つひとつのことをきちんと行うことにあります。

こうしたことは、最難関校を目指す生徒だけではなく、中学受験生全体にいえることです。しっかり基礎・基本を身に付けて、手を動かすことを大切にしましょう。

(筆者:金廣志)

プロフィール


金廣志

悠遊塾主宰。森上教育研究所スキル研究会講師。<武久鴻志会>の渋谷教室教務責任者を経て、悠遊塾を設立。一人で4教科を指導、塾生全員を全国の超難関校に合格させカリスマ講師として一躍有名になる。異色の経歴から発想されてきた学力向上の方法論は他に類例を見ない説得力で多くの保護者に支持されている。著作に「まとめ これだけ!算数(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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