公式を丸暗記して問題を解こうとする[中学受験合格言コラム]

公式を丸暗記して問題を解こうとする

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。


※小泉さんへのご質問は、不定期にBenesse教育情報サイトメンバー向けのメールマガジン「教育情報サイト通信」で募集をいたします(随時の受付は行っておりません)。


質問者

小6女子(性格:感情的なタイプ)のお母さま


質問

算数で公式の意味を理解せずに丸暗記し、そのまま解こうとするので、ひねった応用問題を解くことができません。


小泉先生のアドバイス

公式を自分で導けるようにしておく。

算数や数学には公式というものがあり、それを教えてもらうと基本問題などは当てはめるだけでスラスラと解けてしまいます。「なんだ、簡単じゃないか」ということで、先生が公式の意味とか、その導き方などを説明しているのに、真剣に聞かない生徒さんもいます。恐らく、公式を暗記していれば解けるという安心感があるからでしょう。しかし、現実はそんなに甘いものではありませんから、ご指摘のとおり、ひねった問題になると対応できなくなります。

対応できない理由としては、公式自体を忘れるということがまず考えられます。たとえば、「速さの公式」には次の3つがあります。







3つの組み合わせですから単純なように思えますが、それぞれの内容や関係の意味を考えずに丸暗記していると、試験中に正しい公式を思い出せなくなってしまうのです。あるいは、公式を覚えていても、複雑な問題になると、どの数字を使えばよいのかわからなくなってしまうでしょう。
このようなことを防ぐために、昔からあるのが右に示すような「はじきの図」(図1参照)を使う方法です。実際に目に見えますから、忘れたりまちがえたりすることが確かに少なくなると思います。

覚えておくと便利な図なので、詳しく説明しましょう。

図1にある「き」は「距離」、「は」は「速さ」、「じ」は「時間」を表します。この図が便利なのは、たとえば「速さ」を求めたい時は、「は」の部分を隠すと(図2)、「き/じ(上下関係=わり算)」となり、「(距離)÷(時間)」にすればよいことがわかります。また、「時間」を求める場合は同様に「じ」を隠すと、「き/は(上下関係=わり算)」が現れますから、「(距離)÷(速さ)」であることが視覚的にわかります。さらに「距離」の場合は、「き」を隠すと、「は」と「じ」が並んでいる(かけ算)ので、「(速さ)×(時間)」であることもわかるでしょう。

この方法は昔から使えるワザとして生徒たちに教えられてきた手法ですが、すばらしい工夫だと思います。ただし、欠点はあります。すなわち、この図を覚えなくてはならないということです。この図を忘れたり、あるいはまちがえて思い出したりすると、散々な結果になることは容易に想像できると思います。

さて、もう少し原理・原則に基づいた覚え方、あるいは理解のしかたは、「距離」を「速さ」と「時間」をかけ合わせて得られる「面積」と考える方法です(図3参照)。

この覚え方のすばらしさは、「距離は面積」ということを忘れなければ、図3のような図を思い出せて、(速さ)×(時間)=(距離)という関係を自分で導けるようになることです。そして、残りの2つの式もこの式から導けると思います。このように、公式を忘れても大丈夫なように、「自分で導けるようにしておく」ことを学習の目標としておくとよいでしょう。これから覚えなければならない新しい公式は増えていきますし、中学、高校になればその数は増える一方です。そして、「自分で導ける」ようになるには、その公式の原理・原則まで理解する必要が出てきますから、応用問題にも対処できるようになるのです。

最後にもう1つ。たとえば、「距離は面積!」というのも忘れてしまったらどうしましょう。その場合は、簡単な具体例で考えるというのも1つの方法です。たとえば時速80kmで走っていて、目的地まで40kmだったら何時間かかるかを考えてみましょう。たとえ速さの公式を忘れてしまっても、「80kmの距離を時速80kmで走ったら1時間かかる」ということは直感的にわかると思います。そして目的地までの距離が40kmと半分ならば、かかる時間は「30分(0.5時間)」であることもわかるでしょう。これらがわかれば、80(時速)×0.5(時間)=40(距離)という関係がわかり、これより速さの公式を導くことができると思います。この方法は、具体例を使って原理・原則に沿って公式を導くやり方です。

このように、公式を使いこなせるようになるには、意味もわからず暗記するだけではダメです。試験場で忘れてもよいように、自分で導けるようになるまでの深い理解が必要なことをお子さまにお伝えください。深く理解することで、算数の成績も大きく伸びると思います。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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