言葉から連想される登場人物の気持ちの変化が読み取れません[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6男子のお母さま


質問

読解の記述問題が苦手です。あと、問題文を読むのが遅く、解くために読むというよりは物語を楽しみながらじっくり読んでしまい、記述時間が足りなくなります。しるしつけや線引きはある程度していますが、言葉から連想される登場人物の気持ちの変化が読み取れません。あまり読書をしないので最近は過去問の文章だけでも毎日読むようにしています。受験まであと10日。これだけは絶対やったほうが良いことはありますか?


小泉先生のアドバイス

変化が激しい場合は、気持ちを間違えてとらえている可能性が高い。

「気持ちの変化が読み取れない」という生徒は少なくありません。そして、そういった生徒に多く見られる共通点は、「気持ちは短い時間でも変化をくり返す」と誤解していることです。たとえば、暗く沈んでいた登場人物が、すぐに明るくなり、また腹を立て、さらにまた喜ぶというような目まぐるしい変化です。このような変化を表したものが、図1における物語2の折れ線です。


図1

図1では、中央に平常な気持ち(0)をとり、下に行くと「悲しい」とか「腹立たしい」というマイナスの気持ち、上に行くと「楽しい」とか「ありがたい」などのプラスの気持ちを表します。ここで物語2の折れ線は上下をくり返していますが、入試問題の物語文という短い文章の中では、まずあり得ない動きです。

物語1の折れ線は、最初はマイナスでしたが、ある地点でプラスに変化しています。この変化は典型的な「成長の物語」の動きであり、たとえば、最初仲が悪かった兄弟が、何らかの事情でお互いの気持ちをわかり合い、最後には家族の一員として互いを認めるなどの物語です。もちろん、もう少し変化が激しい物語もあります。たとえば最初仲が悪かった友達と途中で仲良くなるのだが、最後にはやはり友達を信じられなくなるような物語です。折れ線で示すと、上に凸のグラフになります。
しかしながらこのような物語でも、物語2のような激しい変化はまずないでしょう。そして、物語2のように気持ちをとらえてしまうと、気持ちの変化を正しくとらえられなくなる可能性があります。たとえば腹を立てている登場人物が、何の状況の変化もないのに、次の瞬間「にやっと笑った」としたら、これは「皮肉な笑い」でしょう。あるいは、「自嘲(じちょう)」しているのかもしれません。「笑った」としても、「喜んでいる」ととらえては誤りです。感情は何かが起こらないと変化するものではないのですから、もっと大きくとらえる必要があるということです。これが、気持ちのとらえ方の原則です。

気持ちの変化のとらえ方の一つの方法は、まずは最後の部分が良い感じで終わっているか(つまり+)、そうではないか(つまり - )を見極めることです。そして、もしプラスで終わっている物語文であれば、「マイナス⇒プラスの形」の物語か「プラス⇒マイナス⇒プラスの形」の物語のいずれかと考えて良いでしょう。なぜなら、「プラス⇒プラス」というような山場のない物語はまず存在しないからです。
そして、物語の形が決まったら、どこで変化したのかを慎重に探していきます。たとえば「マイナス⇒プラス」の物語である図1の物語1では、A地点が気持ちが変化したところです。これが問題文の中のどこなのか、具体的に、「一文」あるいは「ひと言」や「ひと動作」の単位で特定していきます。たとえば、自分の能力に劣等感を抱いていた登場人物が、何らかの原因でそれを乗り越えた一瞬は、「そうか、人はいろいろなんだ」という言葉で表現されているかもしれません。このひと言を見逃さないことです。そしてそのためには、マイナスだった箇所とプラスになった箇所を前後から追っていくことで、変化の瞬間を見つけることです。この方法は、比較的すぐにできるようになりますから、受験まで日にちがない場合でも練習しておくと良いと思います。

なお、気持ちを問題文に直接記入する生徒もいると思います。たとえば、良い気持ちの場合はプラス(+)であり、悪い場合はマイナス( - )です。この方法も良いと思いますが、注意点はまったく同じです。つまり、同じ登場人物の気持ちが、短時間でプラスになったりマイナスになったり変化が激しい場合は、気持ちを間違えてとらえている可能性が高いということです。

気持ちの変化をよく間違える生徒さんは、これらの方法で登場人物の気持ちの変化を追ってみましょう。きっと、正しい気持ちの変化がつかめるようになると思います。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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