不登校から《将来》をどう描くか。進路について保護者が知っておきたい「心構え」と「選択肢」

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お子さまが不登校になった時、将来についての不安を抱くかたもいらっしゃるかもしれません。再登校できないと、進路が閉ざされるのでは? と悩むこともあるでしょう。

不登校を経て、子ども自身が納得できる進路やキャリアを選択していくにはどうすればいいのでしょうか。20年以上にわたり教育現場で多くの不登校生徒にも向き合ってきた、Be高等学院・学院長の上木原孝伸氏(写真)に伺いました。

この記事のポイント

不登校は「問題」ではなく「現象」にすぎない

まず前提としてお伝えしたいのは、不登校は、個人と環境のミスマッチから生じる「現象」にすぎないということです。文部科学省が2016年9月に「不登校を問題行動と判断してはならない」という通知を出しているように(※1)、不登校であること自体は決して「問題」ではないのです。

一人ひとりの個性が異なる以上、学校で一律の教育を受けるなかで、その環境に合わない子どもが出てくるのもごく自然なことです。それ自体はネガティブなことではありません。

不登校を経て、進路やキャリアを築いていくことももちろん可能です。こちらは過去のデータですのであくまで参考としての情報ですが、内閣府の平成21年の調査によると、中学校不登校生徒の卒業約4年後の状況は次のとおりです(※2)

「仕事にはついておらず、学校にも行っていない」というケースは16.5%ありますが、学校や仕事、学校以外で勉強をしている人は、その5倍近い79.7%。将来に向けての歩みを進めているケースのほうがはるかに多いことがわかります。

まずはお子さまの状況や特性をつかむ

不登校になったとしても、再登校をするのが必ずしも最適解だとは限りません。お子さま個人と環境のミスマッチには、さまざまなケースが考えられるためです。いじめが原因のケースや、学習の遅れがあるために周りとの学習進度が合わないというケース、人間関係が合わないケース、集団生活が合わないケースなどもあるでしょう。

まずは、お子さまがどんな状況にあり、どのような特性を持っているのかを見極めることが大切です。そのうえで、お子さまに合った環境を考えていけるといいでしょう。

ただし、お子さまの状況や特性をつかむうえでは、親子だからこその難しさもあります。近い関係性だからこそ、素直になれないことや、言いにくいこともあれば、逆に遠慮なく踏み込みすぎてしまうこともあるでしょう。

そんな時は、第三者を介して客観的に把握することで、うまくいくこともあります。スクールカウンセラーやお子さまが信頼している先生などに相談してみるのも一つの手段です。

また、お子さまの得意・苦手といった特性や、支援の手がかりを得られる検査もあります。小児科や児童精神科で受けられるWISC(ウィスク)検査や、民間企業が提供している検査にはオンラインで受けられるものもあるので、活用してみるのもいいでしょう。

もちろん、お子さまとの会話から特性をつかむことも可能です。「ほめられたことがあるのってどんなこと?」「されていやだったなって感じた経験はある?」といった声かけができるといいですね。得意なことに気付くのはお子さまの自己肯定感を高める効果もありますが、ストレートに尋ねると恥ずかしがる場合もあるため、他人からほめられた事実を聞いてあげるのがポイントです。

特性に合った環境の選び方

お子さまの状況や特性をつかむと「不登校になったのは、今の学校がたまたま環境として合わなかっただけ」とフラットにとらえられるようになるでしょう。繰り返しになりますが、不登校は個人と環境のミスマッチに過ぎず、学ぶことそのものに不適合なわけでは決してありません。

子どもは、自分の特性にマッチした環境に置かれると、いきいきと輝き出します。私自身、実際にそのようなケースをいくつも目にしてきました。

では、具体的にどのようにお子さまに合った環境を選択していけばいいのでしょうか。いくつか例をご紹介します。

●対面のコミュニケーションが苦手な場合

対面のコミュニケーションが苦手な子どもでも、テキストコミュニケーションは問題なくできる、むしろ得意というケースも少なくありません。チャットツールでのコミュニケーションがスタンダードになっているような学びの場を探してみるのがよいでしょう。

●友人関係や先生との関係が原因の場合

スクールカウンセラーなどに、環境の整え方を相談してみましょう。また、友人関係のトラブルでは、SNSが原因になっているケースもあります。その場合は、SNSを絶つことも考える必要があります。

●発達障害などの可能性が考えられる場合

ひと口に発達障害といっても、特性はさまざまです。ものごとを早く処理するのが苦手、完璧主義で少しのミスも許せないなど、お子さまの特性に合わせて柔軟な対応をとりやすい、少人数で面倒見がよい環境を選ぶとよいでしょう。少人数であれば、合理的配慮も得やすくなります。

不登校からの進路の選択肢は多様にある

不登校からの進路には、さまざまな選択肢があります。高校一つ取っても、全日制もあれば通信制、定時制などが考えられますし、高卒認定をめざすことや、専門学校への進学、就職、留学(海外留学、国内地域留学)などもあります。

中でも通信制高校は、自分のペースで進路を築いていける場として、とくに注目されています。以前は「仕方なく行くところ」というイメージもありましたが、ここ数年でポジティブな選択肢に変化しつつあります。

その理由は、自分のペースで学習を進められて時間的余裕もつくりやすいため、やりたいことを見つけることに時間を割いたり、アルバイトなどで社会との接点をつくったりできるから。不登校の子どもは「学校にも行けていないのに外に出るなんて……」と自分に制限をかけて、家から出られないことも少なくありません。お子さまが無意識に感じている後ろめたさを和らげてあげるのが大切です。

お子さまが不登校になると、保護者のかたはもどかしい思いを抱えることもあるでしょう。しかし、進路の選択肢は多様にあるからこそ、焦らず、一度立ち止まってお子さまが自分自身と向き合う時間を取っていただけたらと思います。

「しなさい」ではなく「どうしたい?」「何か手伝えることある?」で自己決定を促す

進路やキャリア形成を考えるうえでは、「自己決定」が大切です。たとえ時間がかかっても自分で決めることで、当事者意識や納得感が高まります。

反対に、誰かに決められたものであれば「やらされ感」を覚えてしまいます。学校に行く・行かないも、これからの進路も決める権利を持っているのはお子さまです。保護者主導にならないように注意しましょう。子どもは保護者の顔色をうかがった選択をすることもあるため、フラットに中立であることを心がけてください。

保護者主導にならないためのコミュニケーションのポイントは、次の4つです。

  • 1. 現状を共感的に傾聴して「どうしたい?」と希望を尋ねる。
  • 2. 「手伝えることある?」と希望や必要な支援を聞く。
  • 3. 選択肢を複数提示する。
  • 4. お子さまが決めたことは尊重するスタンスを取る。

そうはいっても、理想と現実は異なるため、なかなかうまく進まないこともあるでしょう。もどかしさのあまり「~しなさい」と言いたくなることもあるかもしれません。

そうならないためには、家庭内だけで解決しようとせず、第三者機関にうまく頼ることがポイント。教育支援センターや放課後等デイサービス、就労支援といった公的サービスから民間サービスまでさまざまなサービスがあるので、遠慮せず相談してみてください。

不登校は人生で必要な時期と受け止める

不登校のお子さまに向き合う保護者のかたは、人に言えない苦しさや不安に押しつぶされそうになることもあるのではないでしょうか。そんななか、お子さまの将来を考え、この記事にたどりついていらっしゃるのは、それだけ真摯にお子さまに向き合い、がんばられているということだと思います。

不登校は問題ではないと言われても、安心できない部分もあるでしょう。感情が堂々巡りになることもあるかもしれません。

ただ、不登校を経験した子どもたちと話をしたなかで、多くの子どもが口をそろえていたのが「家の中が暗くなるのが一番嫌だった」ということでした。心が削られる思いをすることもあるなかで簡単ではないと思いますが、不登校という現象に対して、ポジティブであること、少なくともネガティブに反応しないことはやはり大切です。

時には、お子さまが暴言を吐いてきたり、無視したりすることもあるかもしれません。しかし、それは保護者を甘えられる相手と思っているからこその行動だったりもするものです。辛いことも多いと思いますが、不登校にある今は、お子さまの人生で必要な時期と受け止めて接してあげてください。また、保護者のかたの心の平穏のためにも、例示したような家庭外での相談先を見つけ、頼っていただきたいと思います。

(出典)
※1
不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)/文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1375981.htm

※2
高校中退者・中学校不登校生徒の「その後」と地域における支援/内閣府
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12927443/www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h21honpenpdf/pdf/tokushu.pdf

プロフィール


上木原 孝伸

教育企業で講師として17年間教壇に立ち、教科指導や教室運営に携わった後、通信制高校の開校準備から参画、同校の副校長を4年間務める。その後、発達に特性があるお子さまとそのご家庭にマッチする環境のコンサルティングサービスの責任者を務めた後、ベネッセコーポレーションに入社。Be高等学院学院長に就任。

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