いじめ対策で進む? 警察との連携‐斎藤剛史‐

全国の警察が2013(平成25)年に扱った「いじめ」に起因する事件は410件で、前年より150件(57.7%)も増えたことが、警察庁のまとめでわかりました。背景には、大津市の中学生いじめ自殺事件により警察への通報や相談が急増したことが挙げられます。また2013(平成25)年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は、重大事態の際は警察に通報することを学校に義務付けており、学校と警察の連携がこれから大きな課題となりそうです。

2013(平成25)年1年間にいじめに起因する事件で検挙・補導された子どもの数は、前年比213人(41.7%)増の724人(小学生88人、中学生527人、高校生109人)で、事件数と検挙・補導者数の両方とも大幅に増えたことになります。警察はこれまで1回のみの行為は、いじめではなく、暴行や恐喝などの刑法犯に分類してきましたが、いじめ防止対策推進法によって法的に「いじめの定義」が定められたことで、1回のみの行為もいじめに加えることになりました。このため事件数などが増加したともいえますが、旧定義で計算すると、2013(平成25)年のいじめの事件数は334件(前年260件)、検挙・補導者数は606人(同511人)となり、やはり大きく増えていることは間違いありません。
一方、いじめに起因する事件の急増は、いじめ自体の増加というよりも、大津市の事件を契機に警察が積極的に被害届を受理する方針に転じたことで、学校や保護者からのいじめの通報や相談が増加したことが、大きな理由のようです。いじめ防止対策推進法は、生命や財産などにかかわる「重大事態」のいじめは警察に通報し、必ず援助を求めることとしています。これに対応して学校と警察の連携が強調されるようになってきました。

たとえば、東京都教育委員会と都内すべての市区町村教委は警視庁との間で相互連絡協定を結んでいるほか、愛知県教委や名古屋市教委などもいじめや非行などに関する情報共有のための協定を警察と結んでいます。また岡山県は2014(平成26)年4月から岡山県警の中に「学校警察連絡室」を新設し、専従の警察官が学校を巡回して問題行動などの対応やその助言に当たることにしています。
このほか、いじめ防止対策推進法では、都道府県や市町村などに「地方いじめ防止基本方針」の策定などを求めていますが、その一環として横浜市などのように警察をメンバーに加えた対策協議会などの組織を設置する自治体もあります。文部科学省も警察との積極的な連携・協力を学校に要請しており、これまで内部だけで問題を解決しようとする傾向が強かった学校の姿勢も徐々に変わりつつあるようです。

ただ、学校関係者の一部には「警察への通報が、結果的に問題の丸投げにつながっている」と批判し、学校が十分な対応をしないまま、警察にすべて任せきりにすることを懸念する声もあります。警察に任せるだけでは、本当の意味でいじめは解決しません。学校と警察との関係で重要なのは、あくまで「連携・協力」であるということを学校関係者や保護者は忘れてはならないでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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