地方教育行政の支出は増えたが…気になる背景と今後

文部科学省がまとめた2015(平成27)年度「地方教育費調査」で、学校教育などのために都道府県教育委員会や市町村教育委員会が支出した教育費が5年ぶりに増加したことがわかりました。しかし、その中身をよく見ると、地方自治体の教育費支出が増えたことを単純に喜んでもいられないようです。

背景に二つの震災対応

調査によると、決算が終了した2014(平成26)年度中に地方自治体が支出した教育費は総額16兆900億円で、前年度より2.7%アップしました。地方教育費が前年度よりも増えたのは、5年ぶりのことです。

地方教育費の内訳を見ると、特別支援学校を含む公立の幼稚園から高校等までの学校教育費が13兆5,093億円(前年度比2.7%増)で2年ぶりの増加、図書館や公民館などの社会教育費が1兆6,299億円(同1.7%増)で2年連続の増加、教育委員会事務局などの教育行政費が9,508億円(同4.1%増)で5年ぶりの増加となっています。ただし、地方教育費は1996(平成8)年度に19兆996億円で過去最高を記録して以降、ずっと減少傾向を続けており、今回5年ぶりに増加したといっても、全体の減少幅から見れば微々たるものともいえます。

学校教育費の支出別項目を見ると、教員給与などの人件費が9兆3,859億円で前年度より1.5%増、校舎などの建築費が1兆5,572億円で同6.3%増となっており、この2項目が地方教育費の増加の主な要因といえそうです。人件費が上昇した理由としては、東日本大震災の復興財源確保の一環として削減された国家公務員給与の減額期間が終了し、それに準じていた教員など地方公務員の給与もアップしたことが挙げられます。

また、建築費の上昇も、東日本大震災以降、文科省の強い指導により公立学校の耐震化が進められ、校舎などの耐震化経費が増えたことが原因と思われます。こうして見ると地方教育費が前年度より増えたのは、必ずしも積極的な理由によるものではないことがうかがえそうです。

子ども一人当たりの消費的支出はピーク時を下回ったまま

学校教育費を児童生徒一人当たりで見ると、小学校は94万円(前年度より2万8,000円増)で過去最高を記録したほか、中学校は107万2,000円(同2万9,000円増)、高校全日制も115万2,000円(同5万4,000円増)となっています。一人当たりの学校教育費は、それほど減っていないように見えます。

ただし、学校教育費のうち、人件費などの「消費的支出」を児童生徒一人当たりで換算すると、小学校はピークだった2002(平成14)年度の76万5,000円に対して75万3,000円、中学校は07(同19)年度の85万8,000円に対して85万2,000円、高校全日制が07(同19)年度の97万3,000円に対して93万3,000円と、いずれもピーク時を下回ったままです。

そもそも学校教育費は、「消費的支出」が80.9%を占め、教員給与など人件費だけを見ても全体の69.5%に上っています。校舎などの「資本的支出」は13.2%にすぎません。つまり学校教育費を増やして教育をよくするということは、教員を増やすということを意味しているともいえるのです。地方教育費、それに占める学校教育費などもこういう視点から見直してみる必要があるかもしれません。

  • ※平成27年度(平成26会計年度)地方教育費調査(中間報告)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/005/1372101.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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