18歳選挙権で増加する模擬選挙などの「出前授業」

選挙権の年齢が「18歳以上」に引き下げられることになる夏の参議院選挙が、だんだん近付いてきました。それに伴い、高校などでの「主権者教育」が課題になっています。総務省の調査によると、地方自治体の選挙管理委員会などと連携した出前授業を行う高校が急増していることがわかりました。出前授業や模擬投票などの取り組みは今後も増えていきそうです。ただ、教育関係者などの一部からは、そのような動きに対する懸念の声も出ているようです。

改正公職選挙法により、2016(平成28)年夏の参議院選挙から18歳選挙権が実施され、高校生の一部も投票できるようになります。同時に問題となっているのが、高校などでの「主権者教育」です。高校までにきちんとした主権者教育を受けていないと、政治や選挙などのことをほとんど知らないまま、投票に挑まなければならなくなるからです。そこで注目を集めているのが、地方自治体の選挙管理委員会やNPOなどによる、出前授業です。

総務省の調査によると、全国で選管などによる出前授業を実施した高校は、2013(平成25)年度は56校にすぎませんでしたが、2015(同27)年度には1,149校となり、約21倍にも増えました。出前授業を受けた高校生の数も、2013(平成25)年度の9,153人から、2015(同27)年度は31万824人と、約34倍にもなっています。

出前授業では、選管職員などが講師になって選挙の仕組み、選挙違反になる行為などの講義をしたうえで、本物の投票用紙や投票箱などを使って模擬投票をする……という内容が一般的です。また生徒が模擬議会を開いたり、マニフェストや政策を掲げて模擬選挙で争ったりというような取り組みをしているところもあります。

ただ、出前授業などの増加の一方で、それを懸念する声も出ています。選管などによる出前授業や模擬投票は「選挙の仕組み」を説明するだけで、主権者として必要な力を身に付けさせるものではないという意見です。また、模擬議会などの取り組みでも、賛否が分かれるようなテーマを避けて、政策論争などに深入りしないようなものもあり、主権者教育というには物足りないという声も一部にあるようです。

主権者教育の在り方を審議している文部科学省の検討チームは、中間まとめの中で主権者教育の目的を「社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を」「発達段階に応じて」「身に付けさせる」ものと位置付け、幼児期から段階的に主権者教育を進めるよう求めています。これに対して高校では、高校生の政治活動の禁止という旧文部省通知や大学受験なども絡んで政治に関する問題を長い間避けてきたのが実情です。そのため本格的な主権者教育の実施は、次期学習指導要領の新科目「公共」(仮称)の登場まで待つという雰囲気も強く、主権者教育をどう具体化するかが大きな課題となっています。

一方、主権者教育は学校だけでなく家庭も大きな役割を負っています。政治というと難しく聞こえますが、テレビのニュースなどを見ながら、その時々の社会的話題について家族で話し合ってみることも、立派な主権者教育の一つといえるのではないでしょうか。

  • ※学校教育と連携した啓発事業実態調査報告書
  • http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei15_02000120.html

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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