いじめ対策で必要なことは‐斎藤剛史‐

文部科学省の2014(平成26)年度のいじめに関する調査で、全国の小中高校などでは、前年度より2,254件多い、18万8,057件のいじめがあったことがわかりました。特に小学校では12万2,721件に上り、1985(昭和60)年度の調査開始以降で過去最多となっています。しかし今回の調査結果からは、いじめの件数よりも、さらに重要なことを読み取ることができそうです。

いじめの調査は、2014(平成26)年度問題行動調査として校内暴力などの項目と共に実施され、いったん15(同27)年6月末に集計されました。ところが、2015(平成27)年7月に岩手県矢巾町で中学生のいじめ自殺事件が発生し、学校側がいじめを認知していなかったことなどから、いじめに関する部分だけ、調査をやり直しました。再調査の結果、いじめの件数は最初の集計より約3万件増えました。
調査をやり直した間に、新たに約3万件のいじめが発生したり見つかったりしたということは、あまり考えられません。最初の調査でいじめにカウントされなかった事案が、再調査で件数に加えられたケースが多いと推察されます。実際、子ども1000人当たりのいじめ件数を都道府県別に見ると、最多の自治体と最少の自治体の間には前年度83.2倍の開きがありましたが、再調査ではそれが30.5倍に縮小しました。発生率が高い自治体は高止まりしているので、いじめ件数が少なかった都道府県で、いじめが増えたということになります。それでもまだ30倍以上の格差があることから、依然としていじめ件数が増えることに対する強い抵抗感が一部の都道府県にあることがうかがえます。

いじめ防止対策推進法で学校に義務付けられた「いじめ防止基本方針」は、99.2%の学校が策定し、「いじめ防止対策組織」も99.4%が設置しています。しかし、いじめ件数が増えることは行政的に好ましくないという雰囲気がもしあるとしたら、どれだけ基本方針や対策組織を設けていても形骸化してしまうでしょう。
いじめは、学校がいじめと認知して初めて対策が取れるものだからです。いじめの件数が多い学校は、実はそれだけいじめを細かく把握できている学校で、逆に、いじめの件数が少ない学校は、もしかしたらいじめの早期対応の面で問題がある学校かもしれないともいえるのです。いじめのアンケート調査などでは、保護者は件数の増減に敏感になりがちですが、いじめの件数はあくまで「認知件数」であるということを理解しておくべきでしょう。

一方、いじめ問題には、日常的な取り組みが大切です。しかし、いじめに関する校内研修などを実施している学校は、小学校が76.2%、中学校が70.7%と、やや低いのが気になるところです。

日本の教員の多忙さは、国際調査でも問題になっています。教員が子どもたちと向き合える時間が少なくなれば、いじめの早期発見や早期解決にも支障が出ることは間違いありません。少子化のなかで教員を増やすことには批判も少なくありませんが、教員の増員や多忙化の解消は、ある意味、最も有効ないじめ対策の一つともいえると思います。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

子育て・教育Q&A