教員採用試験で増える社会人の「特別枠」-斎藤剛史-

2013(平成25)年度に全国の公立学校教員採用者のうち民間企業など社会人経験者の割合が5.9%だったことは、以前の当コーナーでもお伝えしました。子どもや保護者の実態やニーズが多様化する中で、新規採用教員には教員養成課程での指導力の向上などが求められる一方、社会人経験者などの多様な人材を登用することも課題となっています。このため最近では、一般の試験とは別枠で社会人などを対象にした「特別選考」を実施する教育委員会が増えています。

文部科学省の「教員採用選考試験の実施状況調査」によると、最近の公立学校教員採用者に占める民間企業等勤務経験者(アルバイトを除く)の割合は、2008(平成20)年度が6.6%、09(同21)年度が6.0%、10(同22)年度が5.9%、11(同23)年度が5.3%、12(同24)年度が5.5%、13(同25)年度が5.9%というように、ほぼ6%前後で推移しています。これだけを見ると、社会人の教員採用はあまり大きく進んでいないようです。

ところが、教員採用者数の実績とは別に、採用試験の方法を見ると、大きな変化があることがわかります。文科省の「教員採用選考試験の実施方法調査」によると、一般試験とは別に社会人向けの特別選考を実施している都道府県・指定都市教委は、10年前の2004(平成16)年度採用試験では15教委だったものが、09(同21)年度には34教委、そして14(同26)年度には40教委へと増えています。特別選考の方法は、通常の1次試験における一般教養などの筆記試験の代わりに小論文や面接を課すというようなものが多く、筆記試験などの受験対策にあまり時間を割けない社会人に配慮したものとなっています。応募資格としては、民間企業などに「継続して5年以上」勤務していたことなどを条件にしている教委が多いようです。
ただ、社会人向けの特別選考を実施する教委は増えているものの、水産や商業など高校の職業系科目の教員のみ数人の採用にとどまる教委もあれば、中学校と高校の全教科にわたって数十人規模で社会人を採用している教委もあるなど、都道府県などによって社会人採用に対する考え方の違いもあるようです。社会人の特別選考による採用者(2013<平成25>年度)が多い都道府県・指定都市教委は、大阪府45人、神奈川県33人、横浜市21人、三重県11人、広島県・広島市10人などです。

民間企業勤務などの経験のある教員が、そうでない教員よりも優れているかどうかは議論のあるところでしょう。しかし、社会の多様化が進む中で、学校組織が均一的・画一的にならないようにするため、一定の割合で社会人経験のある教員が存在する意義は大きいと言えます。今後、教員採用試験の改革の一環として社会人向けの特別選考枠のさらなる拡充が求められます。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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