息子2人が不登校になった医師、対処わからず「気持ちどん底」 妻に気づかされた息子の心情 #令和の子 #令和の親

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2023年に発表された文部科学省の調査(※)によると、小・中学校における不登校児童生徒数は29万9,048人で過去最多に。そして、子どもを支える保護者もまた、不登校に向き合う当事者です。

二人の息子がともに不登校になった整形外科医のかにーじゃさん(ハンドルネーム)もその一人。父親として、将来への悲観、世間体、周囲の無理解など、さまざまな要因で精神が蝕(むしば)まれていきました。

最初に不登校を経験してから5年。今でこそ精神的なつらさから解放され、状況を客観的にとらえられるようになりましたが、そこに至るまでには父親としての苦悩と、多くの気付きがありました。


※写真はイメージです

不登校のことは知られたくない

2019年、当時小学4年生だった次男の不登校が始まりました。中学3年生になった現在に至るまで、不登校は続いています。

「次男は繊細な気質で、集団行動が苦手。3つ上の兄と一緒に小学校に登校しているうちは、なんとか通えていたものの、長男の中学校入学を機に登校できなくなりました」

不登校の初期が、最もつらかったと振り返るかにーじゃさん。「レールから外れたら、この子の人生は真っ暗だ」と絶望しながらも、整形外科医として多忙を極める中、十分な対応はできませんでした。

「登校させなければ、と焦ってばかりでした。また、世間体を気にして『不登校のことは周りに知られたくない』という思いもありましたね」

そして次男の不登校開始から1年ほどたった2020年7月。コロナによる休校が明けてから、今度は長男が不登校に。

「長男は優等生タイプ。順調に通学するだろうとまったく心配していなかったぶん、ショックが大きかったです」

不登校の原因は、はっきりとはわかりませんでした。

「いじめや人間関係に悩んでいたわけではないようです。論理的な子ながらも、本人もなぜ行きたくないのかがわからない様子で。どう対処すべきかわからず、気持ちはどん底でした」

勉強の遅れへの焦り


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かにーじゃさんの一番の心配事は「勉強」でした。まったく勉強をしない毎日が続くことで、将来への不安が募ったといいます。自分自身は、子ども時代から勉強をうまくこなし、医師として順調なキャリアを歩んでいる──。 そんな自負も、不安をさらに強めました。

「次男は通信教育を受講。本人が選んだ教材でしたが、数か月しか続きませんでしたね。長男は『自分は勉強自体したくない』と受講そのものを拒否しました」

その代わりに長男は、プログラミングやPCの自作に没頭。学校には行かないものの、プログラミング教室には通う日々が1年ほど続きました。

一方、次男は勉強の代わりに取り組むものはありませんでした。ときに「ああ、暇」と口にすることもあり「だったら、学校に行けばいいじゃん」といら立ちを必死にこらえたことも。外出させようと釣りなどにも誘いましたが、断られてばかりだったそう。

かにーじゃさんは、「今思えば、活発で学校も好きだった自分との比較や、理想の押し付けがあった。無意識にプレッシャーを与えていたのかも」と振り返ります。

「無理に行かせてもしょうがない」

再登校にこだわっていた気持ちは、さまざまな出来事を通して変化していきます。最初にハッとしたのは、近所に住む不登校の兄弟を持つ妻のママ友の言葉でした。

「『無理に行かせてもしょうがないからね』との言葉で、学校に戻すことだけに必死になっている自分に気付きました」

学校に合わない子もいる。息子に接する中で薄々気付きつつあったことが、この言葉で腑(ふ)に落ちたといいます。自身は学校に適応していたからこそ、そうでない子がいるという事実をなかなか理解できずにいたのでした。

また、世の中の変化に気付いたのも、登校へのこだわりを手放せた一因となりました。

「有名な大学に入ることが正解とは限らないことや、職業も昔とはずいぶん変わっていることを痛感しました。不登校を機に、先進的な教育者の著書を読んだり、将来の選択肢を調べたりする中で、世の中が変わっていることに気付けたのです」

自分が乗ってきたレールは、偶然自分に合っていただけなのかもしれない。正しい場所に導いてくれると信じていたものへの疑問が生まれました。その結果「自分の成功体験を子どもに押し付けていた」ことに気付いたと振り返ります。

妻の察知力に驚かされる


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子どもたちへの関わり方も変わりました。

「以前は、自分の成功体験に固執して、息子たちにいろいろと干渉していました。今は、気にかけながらも、何も言わないようになりましたね」

良かれと思ってのアドバイスも、子どもにとってはプレッシャーにしかなっていなかった──。度重なるやり取りで痛感したからこそ、少しずつ自身の行動が変わったといいます。

一方で「妻は、そのようなことはとっくにわかって行動していた」そう。アドバイスこそしないものの子どもへの理解は深く、何度もかにーじゃさんを驚かせました。

「長男の、通信制高校の初めての試験前日のことです。私には長男の様子はいつもどおりに見えましたが、妻が私に『明日は試験を受けに行けないかも』と言い、実際そのとおりになったんです」

自分は感じ取れなかった息子の心情を、敏感に察知した妻。それを目の当たりにしたこともあり、かにーじゃさんは口出しをしないようになりました。
後に長男は、通信制高校への入学を機に不登校を脱していきましたが、その通信制高校への進学をすすめたのも妻だったといいます。

「これは、無理に登校を勧めなかった妻が、唯一提案したことでした」

現在、通信制高校3年の長男は受験生。美術系大学への進学を目指しています。中学3年の次男は、不登校が続きながらも通信制高校への進学を視野に入れつつあるそう。YouTubeの教育系チャンネルで勉強を始めるようにもなりました。

しかし、再登校や、自身の成功体験へのこだわりを乗り越えてもなお、苦しんだことがあります。それは、思わぬ「周囲の無理解」でした。

「学校に行かないから白い顔をしているんだ」

特に、昔の子育て・教育観が染みついた実母との意見の相違は、大きなストレスになったといいます。

「母に息子たちの不登校を告げると『引きこもりになったらどうするの』と大騒ぎでした。『とにかく学校に行かせなさい。午前中だけ行かせてみたら?』とか『この塾に行ってみたらどう?』と、とっくに試したことや、実情にまったく合っていないアドバイスが多くて。よかれと思ってのことだと理解はしつつも、疲弊していきました」

無理に行かせることはしないと伝えれば、理解できないと猛反発を受けます。「どうしてこんなふうになっちゃったんだろう……」という一言は、疲弊した心にトドメを刺すほどでした。

わらにもすがる思いで頼った専門家には、心が救われることが多かった一方で、傷つけられることもあったそう。

「臨床心理士のかたからの『不登校は親の責任ではない。ただ単に今の学校が合っていないだけ』という言葉にはとても救われましたね。ほかにも、たくさんお世話になったかたがいます。一方で数年前の話ではありますが、ある専門家からは、登校させないのは親の責任と言わんばかりに責められたこともあります。『学校に行かないからそんなに白い顔をしているんだ』と直接息子に言ったかたもいて、愕然(がくぜん)としました」

精神が蝕まれないための自衛を


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周囲の思わぬ無理解を突きつけられ、精神が蝕まれていく中で、かにーじゃさんは「どんな人とも相性がある」ということに気付きます。

「相性があるからこそ、あくまで他の人の意見は参考程度にとどめることが大切だと思い至りました。負担に感じるようなら、距離をとって自衛すること。そうしないと、心を蝕まれます」

不登校に家族だけで対応すると孤立してしまうことから、外部の専門機関などに支援やアドバイスを求めたり、悩みを聞いてもらったりすることは、有効な対応策の一つ。ただし、かにーじゃさんは、特定の人に理解してもらうことに固執しないほうがよいと指摘します。

「自分たちの状況のすべてを理解してもらうことは、誰にだって不可能です。相性が合わなければ線引きをして、別のかたに頼ってもいい。そうすることで、自分の心を自衛できます」

登校以外の選択肢が必要

5年の時を経て、不登校を解決すべき問題ではなく、子どもたちがこれからの社会を生き抜いていくための大切な経験にしたいと思うようになったかにーじゃさん。「学校は選択肢の一つに過ぎない」と考えるようになったものの、登校以外の選択肢が少ないことは、社会の大きな課題だと感じています。

「長男は比較的自由の利く通信制高校への進学を機に、不登校を脱していきました。しかし、通信制という方法がとれるのは高校以降であることがほとんどです。小・中学生でもフリースクールなどがありますが、登校以外の選択肢は、より多く必要だと感じています」

登校以外の手段を選べないことは、子どもの自尊心にも影響するのではないかと危惧しています。現に、中学3年生の次男は「学校に行けない自分は負け組だ」と感じている節があるといいます。

「好きなことや打ち込めることを見つけ、少しずつ自信を取り戻すことで、つらい過去へのとらえ方を変えていってあげたいですね」

現在かにーじゃさんは、自身の経験と気付きが、不登校で悩む家庭に少しでも役立てばという思いで、ブログなどで自身の体験をつづっています。

「『当事者ではない人に、すべてを理解してもらうことは不可能』と実体験として感じたからこそ、当事者である自分の経験と気付きを伝えていきたいと思っています」

(※)令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について/文部科学省

※この記事は、ベネッセ教育情報とYahoo!ニュースの共同連携企画です。

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