日本赤ちゃん学会第18回学術集会より[4/4]
【話題提供3】
子育てを取り巻く社会に対する親の意識/高岡純子
高岡純子●たかおか・じゅんこ
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長/主席研究員。乳幼児領域を中心に、子ども、保護者、園を対象とした意識や実態の調査研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。これまで担当した主な調査は、「幼児の生活アンケート」(2000年~2015年)、「乳幼児の父親についての調査」(2005年~2014年)、「妊娠出産子育て基本調査」(2006年~2011年)、「幼児期から小学生の家庭教育調査」(2011年~2018年)、「第2回乳幼児の親子のメディア活用調査」(2017年)など。文部科学省幼児教育に関する研究拠点の整備に向けた検討会議委員(2015年)。
父親の子育て支援に必要なものとは?
まず、子育て開始期における母親・父親の働き方の実態を見ていきます。 本調査への回答時点における母親の就業率は28.3%であり、出産を経て仕事を継続した人は43.8%でした(図25)。一方、父親の87.4%は、正社員・正職員に就いています(図26)。また、およそ3人に1人の父親は、平日の帰宅時刻が21時台以降であり、子どもと触れ合うことが難しい時間帯に帰宅していることが分かりました。
図25:母親の働きかたの実態
図26:父親の働きかたの実態
父親の帰宅時刻には、職場環境との関連が見られます。「部下が子育てに時間を割くことに、上司は理解がある」「子どものこと(病気の際や園の行事など)で休みをとったり早退しやすい」といった「子育てと仕事を両立しやすい職場環境」で働いている父親では、21時より前に帰宅する比率が圧倒的に高くなりました(図27)。仕事と子育ての両立支援制度は、企業の中でかなり広がっていますが、それだけでは十分ではなく、子育てに理解のある職場の風土や雰囲気、上司の存在が大切であることが分かります。
図27:父親の働き方の実態と帰宅時間の関連
このように、平日、父親が子育てに参加しようとしても難しい現実がある中、夫婦は誰の協力を得て子育てをしているでしょうか。子育てのネットワークについて尋ねたところ(図28)、母親・父親ともに、「配偶者」や「親族(親やきょうだい)」を頼りにする比率が高く、「子育てを通してできた友人」「子育て支援センターや児童館、園、療育センターの先生」(以下、子育て支援センターや園の先生ら)を始めとする「友人・地域ネットワーク」を頼りにする比率は、母親で高くなりました。無職の母親では、子育てを通してできた友人、就業中の母親では、子育て支援センターや園の先生らを頼る比率が高く(図表略)、それぞれの生活において、子育てで頼りにできるネットワークを広げていることがうかがえます。
図28:子育てのネットワーク
子育て当事者から見た、日本の子育て環境に求められるものとは?
最後に、社会や子育て施策に対する母親・父親の意識について検討します。 現在の日本の子育て環境への評価を尋ねたところ(図29)、母親・父親ともに、いずれの項目についても肯定的な評価は5割以下と低く、特に「子育てと仕事を両立しやすい社会である」への母親の肯定的評価は、1割に満ちません。
図29:子育て環境への評価
では、子育てをしやすい社会にするために、母親・父親は何が必要だと考えているでしょうか。母親の回答では、比率の高いものから順に、「子育て・教育にかかる費用の軽減」「子育てと仕事の両立支援の充実」「保育の量と質の充実」「働き方の見直しや柔軟化」といった項目が挙がりました(図30)。父親の回答でも、順位は異なるものの、おおむね母親と同じ項目が上位を占めています。経済的な支援だけではなく、子育てと仕事の両立につながる支援への要望が、母親・父親ともに多いと言えるでしょう。
図30:子育て支援施策に関するニーズ
また、今回、平日の父親の子育て時間と関連する項目についての分析も行いましたが、その結果を見ると(図31)、父親が日常的に子育ての時間をもつためには、帰宅時間の早さや、それを支える子育てに理解のある職場環境が必要であり、また、夫婦での子育ての助け合いなどが大切であることが分かります。
図31:父親の平日の子育て時間との関連
母親・父親が仕事と子育てを両立していく上で、現在、家庭も職場も様々な課題を抱えています。それら一つひとつの実態を明らかにし、解消するための具体的な支援策を検討していくことが、今後の重要課題と考えています。