教育虐待は、教育熱心な親が「よかれと思って」行っている。気を付けるべき親のタイプとは

塾や習い事など、親が子どものために「よかれと思って」やっていることが、やりすぎた状態になっていたら、それは『教育虐待』かもしれません。
日本の競争主義的な学習環境の中では、教育熱心な親ほど教育虐待への道を進みかねないと、『やりすぎ教育』の著者で臨床心理士の武田信子先生は警鐘を鳴らしています。
では、子どもが健やかに育つ環境を整えるために、保護者はどうすればいいのでしょうか。学びと遊び、親子のかかわり方など、武田先生にお話を伺いました。

この記事のポイント

教育虐待とは

教育虐待とは、親が教育を名目にして、子どもが傷つきに耐えられる限界を超えるまで、勉強やスポーツ、音楽、習い事などを強制することです。「教育」には、学校で学ぶ教科教育以外に、しつけなどの家庭教育も含まれます。よかれと思ってそれらをすることが、かえって子どもの体や心や脳に悪いことになってしまう状態です。

気づかずに行っている、教育虐待の例

教育虐待の具体例としては、例えば下記のようなことが該当します。
・宿題が終わるまで寝ることを許さない
・スイミングスクールで成果を出すまで友達と遊ぶことを禁止する
・受験勉強のために四六時中休みなく監視を続ける
大人である自分が誰かにされたらとても耐えられないですよね。例えば、子どもにスマートフォンを持たせてGPSで居場所をチェックする行為を考えてみましょう。限定的な活用が必要な、例外的で特殊な事情がきっとあるのでしょう。でも、もし、自分が夫からそんな風に監視されていたらと考えてみて下さい。疑われているなと思いますよね。むしろ万一のために親に持っていてほしいと本人が望むならば、問題はありません。同じ行為でも、押しつけでない対話と合意を心掛けることで、その行為の意味が変わります。とはいえ、夫にGPSで監視されることを望む妻がそんなに多くいるとは思えませんが(笑)。

教育熱心と教育虐待のボーダーラインは?

教育熱心は親の姿勢、教育虐待は親の行為です。教育熱心な親が、あれもこれもやらせたいといっていろいろな情報を提供したり、環境を整えたりしますよね。それを子ども側から見た時に、やりすぎになっていると、教育虐待の状態です。

親の熱心さを子どもは受け入れられているか

例えば、料理の得意な人が、美味しい料理を食べさせたいと言ってテーブルいっぱいに並べてくれたら、それは愛情を感じます。しかし、「せっかく作ったんだから全部食べなさい」と言って無理やり食べさせたら、苦しくてもはや愛情とは言えなくなってしまい、行き過ぎた行為といえます。教育も同じ。子どものことが好きで好きでたまらなくて、愛情をかけたくて仕方がない。自分は教育熱心でやってるのだから虐待と言われたくない、という気持ちはわかります。ただ、その熱心さを受け入れるかどうかは、受け止める子ども側の問題です。

教育熱心な親ほど注意が必要

教育虐待は、センセーショナルな言葉で、危ない言葉です。教育熱心な親を悲しませてしまう言葉なので、私自身もなかなか使えないでいたのですが、いまの日本の「やりすぎ教育」をみんなで振り返って、気を付けましょうという問題提起のためには役に立つ言葉かなと思っています。日本の競争主義的な学習環境においては、教育熱心な親ほど教育虐待への道へ突き進んでしまう可能性が高いです。教育熱心は素晴らしい親の姿勢ですが、その中に虐待にあたる行為がないか確認してセーブしていくのは、難しいことですが大切です。やってしまったことに気づいたら、きちんと人として子どもに謝り、その都度、関係回復をしていくことが必要です。

教育虐待をしてしまう親のタイプとは

子どもに無理をさせがちな親の特徴をあげるとすると、まず、積極的に自分から強制をするタイプが5つ、そして、周囲からのプレッシャーで動くタイプが2つあります。

積極的に自分から強制をするタイプ

1.自分の存在意義を子どもに見出しているタイプ
自分の理想や夢を子どもに託し、子どもを通して自己実現しようとする人です。

2.エネルギッシュで何でもやりすぎる傾向があるタイプ
一所懸命になると何でもやりすぎる傾向があるエネルギッシュな人が、教育に一所懸命になることによって強い圧を子どもにかけてしまいます。

3.役割期待へのプレッシャーを感じていて、自分の人生を生きていないタイプ
キャリアを捨てて結婚した場合など、母として期待される理想像に自分を合わせて生きているものの、自分自身の個人としての今の人生をエンジョイしきれていないと感じている場合。

4.子どもをコントロールできる親がいい親だと思っているタイプ
親には子どもをコントロールすることが出来、また子どもに親の言うことを聞かせることが必要だと思っている人

5.人に何かを無理やりやらせてみて、それが成功した体験を持っているタイプ
自分の成功体験を子どもにも当てはめ、無理やりにでもやらせることが正解だと思っています。

これらの5タイプは自分がある程度動ける人たちなので、教育に力を注ぐとやりすぎてしまう傾向があります。また、子どもが思う通りにふるまわないとイラついたり疲労感が出たりして、子どもに当たってしまうこともあります。

周囲の影響を受けて動くタイプ

6.周囲からのプレッシャーを感じているタイプ
夫や夫の家族、自分の実家に気を使って、期待通りに子どもを育てなければならないというプレッシャーを感じている人。期待に応えるために、教育に打ち込みます。

7.孤立した子育てをしているタイプ
周りに安心して自分をさらけ出し泣き言をいえる人がいなくて、孤立した子育てをしている人。子どもとの距離が近すぎて共生関係、つまり親子が一体化してしまって、子どもの心が見えなくなっていることがあります。

教育虐待を受けている子どもの特徴

教育虐待を受けている子どもの特徴は、当事者である保護者にはわかりにくいかもしれません。でもよく観察してみると、体調が悪いとか、表情が暗いとか、言い訳が多いとか、無理に明るくしているとか、あるいは精神的な症状が出ている状態が見えることもあります。そういう子どもは、いわゆる虐待を受けて育った子と同じように、常に大人の顔色をうかがっていたり、落ち込みやすかったり、弱い者にあたったりします。また、厳しく抑えつけられた中で育った反動で、将来、解き放たれたときに自分が何をしていいかわからなくなってしまうこともあります。

教育虐待をしないために気を付けること

教育虐待をしている親の特徴や子どもの特徴に思い当たることがあったら、「自分が教育虐待をするはずがない」などと否定せず、じっくりと自分を振り返ってください。親は子どもの育て方に関して、自分が今やっていることは子どもにとって本当にいいのだろうかと常に迷いがあるものですが、迷いを持つのはとても大事なことです。もし、迷いなく「そうしなければならない」と思い込んでいるとしたら、子どものことが見えなくなっている状態かもしれません。自分は大丈夫、と思わず、自分の子育てを見つめなおすことが大切です。

子どもの「視点メガネ」をかける

まず、子どもの「視点メガネ」をかけてみるといいでしょう。つまり、子どもの視点になって考えてみるのです。子どもと同じ生活をし、同じことを言われ続ける毎日を送るとしたら…と考えてみます。学校に行って、帰ってきたら塾や習い事に行って、そのあと疲れてボーッとしてたら「早く宿題やりなさい!」って言われる毎日です。お母さんも、仕事から帰ってきて、人に決められたスケジュールをこなし、さらに「今日の夕飯、手抜き?」なんて言われたら、いやですよね。それと同じです。

子どもと対話する

もうひとつは、子どもに聞いてみることです。ディスカッション(討論)ではなく、ダイアログ(対話)です。親子関係は親の方が強いため、ディスカッションしたら勝ってしまいます。そうではなく、親として強い立場にあることを認識したうえで、対話してみるのです。きちんとした対話ができるのは小学校高学年以降かもしれませんが、会話の中で黙ったり、話そうとしてないなって思ったりするところがあったら、おかしいなと気づくはずです。

じぶんを振り返ってみる

子どもから文句や意見を言われた時に、もしかしたら子どもの言っていることは正しいかもしれないと思ってみましょう。少なくとも、子どもの感情や欲求はそこにあるのですから、それに対して、親として子どもの感情や欲求を受け入れているかどうか、振り返って考えてみるのです。子どもの問題だと思っていたことが、もしかしたら親の側の問題であるかもしれません。振り返ると何かに気づくことができたり、迷いが出てきたりします。それを大切にして、もう一度、子どもにとっていいことはなんだろうかと考えてみましょう。

教育虐待という言葉は悪者探しのためにあるわけではない

自分は教育熱心でやっているのに、教育虐待なんて言われたら心外なことでしょう。ただ、この言葉は、日本では競争的な教育環境があり、それに親子に巻き込まれていないかということを振り返って気をつけませんか、という問題提起のための言葉なのです。自分が今日子どもにかけた言葉は子どもに理不尽でなかったか、同じことを自分が大切な人から言われたら耐えられないものではなかったのかを考えてみるきっかけにしてほしいのです。いつも身体的、精神的な教育虐待をし続けている親はほんの一握りだと思いますが、多かれ少なかれ親は子どもに対して権力を使いますから、強すぎることをしてしまうことはあると思います。全くそうでない親はむしろ少ないと思います。私自身の子育てにもそういうところがあったと思います。でも、それを当たり前だと思わないで、自分よりも弱い存在の誰かに対して無理強いしてしまっていいのかな、と考えてほしいのです。そうすることで、いい親子関係が訪れるでしょう。

まとめ & 実践 TIPS

今の競争的な日本の教育環境では、気づかぬうちに親子で巻き込まれて教育虐待をしていることがあります。教育熱心がどれほどいい親の姿勢だったとしても、教育虐待という行為は控えなければなりません。もしやっていることに気づいたら、その時点で止め、関係回復に努めましょう。後半は子どもにとって大切な遊びについてのお話を伺います。

『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』ポプラ社 979円(税込)

親や教師による不適切な教育(エデュケーショナル・マルトリートメント)は、たとえ「本人のためを思って」でも、人権を侵害しかねない、危ういもの。家庭や学校で起きている不適切なかかわりあいの実態を報告、さらに、学びと遊びの本質、幼児期の発達プロセスなどを紹介する一冊。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201208.html

取材・文/井上加織

プロフィール

武田信子

武田信子(たけだ・のぶこ)

一般社団法人ジェイス代表理事。臨床心理士。元武蔵大学人文学部教授。臨床心理学、教師教育学を専門とし、長年、子どもの養育環境の改善に取り組む。東京大学大学院教育学研究科満期退学。トロント大学、アムステルダム自由大学大学院で客員教授、東京大学等で非常勤講師を歴任。著書に『社会で子どもを育てる』(平凡社新書)、編著に『教育相談』(学文社)、共編著に『子ども家庭福祉の世界』(有斐閣アルマ)、『教員のためのリフレクション・ワークブック』(学文社)、監訳に『ダイレクトソーシャルワーク・ハンドブック』(明石書店)など。

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