「早くしなさい!」から子どもを笑顔にする言いかえ術

子どもに、ついつい言ってしまいがちな「早くしなさい!」。言いたくないのに怒ってしまって、後悔するかたも多いのでは?

保育・子育ての専門家であり、NHK Eテレ「すくすく子育て」でも活躍されている井桁容子先生に、そんなときの解決方法をうかがいました。

見通しがたつ言葉がけ

「早くしなさい」は、日本の子どもたちが、大人にもっともいわれている言葉だそうです(笑)。特に、時間がないワーキングママは口にしてしまうかもしれません。でもちょっと待って。なぜ「早く」しなくてはいけないのでしょう? それって、ほとんどは、大人の都合なんですよね。早く家を出て、保育園に行かないと、会社に遅刻する、と。

子どもは、今のことに心を奪われやすいので、行動の切り替えがなかなかむずかしいものなのです。また、幼いときからせっかちの子もいるし、行動や考えることがゆっくりの子もいます。なかなか大人の都合通りにはいかないものです。

何かに気を取られたり、特に理由もなくダラダラしていたりするときは「玄関でおくつさんが待ってまーす」「今日の空は何色かなあ」とか「昨日、咲きかけていたお花はどうなったかな? もう咲いてるかな? 見に行こうか」など、これから先の見通しが具体的に想像できる言葉に言いかえてみましょう。

ときには、遅刻覚悟で子どもの興味やその日の気持ちにおつき合いしてみて。本当に忙しいときに、理由をきちんと説明すると、自分の気持ちを譲ってくれるようになります。大人の都合だけでなく、子どもの思いに共感するということです。そんなことをしたら、毎回要求されてわがままになる、と心配する大人が多いのですが、自分の気持ちをわかってもらえた経験が、ほかの人への共感する心を育てると心理学でもいわれています。お子さんを信じて、やってみてください。

早くできない理由を聞いてみよう

いつもはできているのに、その日だけグズグズしているときは、何か理由があるはず。体温を測り、顔色をまずみてみましょう。今、症状がなくても潜伏期の場合もあります。もしも仕事中に保育園から連絡がくるようなことがあっても大丈夫なように、仕事の段取りや心の準備をしておくことも、ストレスを減らすために大切です。

体調ではなくて、子どもの気持ちの問題なら、「どうして保育園に行きたくないのかな?」「何か困ってることある?」と、子どもの本当の気持ちをたずねてみましょう。また、「虫博士の〇〇くん、待ってるよ」とか「今日はどんな紙芝居かな?」と、園の楽しいことが思い出せるような言葉で誘ってみるのも効果的です。

まだうまく言葉で伝えられない年齢でも、自分の気持ちをわかろうとしてくれていることは伝わります。可能ならば、「今日は、ママもお仕事休みにしようかな」と、おつき合いしてみると、子どもは「本当に困っているときは、わかってもらえる」とか「ママは、ときには自分の都合を譲って自分のためにいてくれる」という信頼感を持てるようになります。

「早くしなさい!」だけでなく「ダメな子ね」とか「なんでできないの」など、否定的な言葉は避けたいものです。子どもは身近な信頼する大人の言葉や関わりで、心が育っていきます。またその言葉を聞いて他の人と関わるときに応用して使うからです。「自分はできない、ダメな子」だと思ってしまったり、自分が言われたように、否定的な言葉をほかの人に投げかけるようになってしまうのです。

やさしい言葉をかけられ、やさしくされて育った子は、人にもやさしい子になります。やさしくされるというのは、甘やかされるとは違います。やさしくされるということは、気持ちを分かってもらえるということで、なんでもやってあげるということではないからです。

ゆったりした気持ちで

仕事を持ちながらの子育ては、理由なく子どもにイライラしてしまうことって、ありますよね。そんなときは、疲れている証拠。頑張りすぎていませんか? 頑張ることは、必要なのですが、頑張りすぎるのは、家族の為にも自分のためにもよくないことです。“頑張る”は、“かたくなに張る”という意味ですから、他の人の言葉を受け入れる余裕もない状態ということです。肩の力を抜いて、ゆっくり呼吸してリラックス。1日、休みを取って、保育園や実家に子どもを見てもらって、自分のための気分転換に使ってもいいのですよ。

子どもが保育園に行きたくないとぐずっていたら、「ママも会社に行きたくないー」と一緒にぐずってもいいんです。子どももかたくなに気を張っているママよりも、一緒に心を揺らしてくれるママのほうが好きです。もしかしたら、反対に子どもになぐさめられるかもしれません。

子育てには、思いもよらないことがたくさん起こるもの。イライラするのではなく、おもしろがっちゃうといいですよ。「こんなイタズラをして、わが子は天才かもしれない!」とか。「こういうときに限ってこんなことが起こるのも人生あるある」「ここで怒らずに笑えたら、私は結構かっこいいかも」という具合に。

子どもにとことんつき合う経験や、イライラせずに発想を転換する考え方は、きっと、のちのち仕事にも活きてきます。子どもが笑顔でいられること、それにはまず、おうちのかたががゆったりと笑顔でいることです。

取材:こどもちゃれんじ

プロフィール

井桁 容子

保育・子育てカウンセラー。非営利団体「コドモノミカタ」代表理事。東京家政大学が併設する乳幼児の保育・研究を実践する研究機関にて42年間勤務。NHK Eテレ「すくすく子育て」はじめメディア出演や講演、『「ていねいなまなざし」でみる乳幼児保育』など著書多数。

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