子どもの「できない」を引き出しているものは?[やる気を引き出すコーチング]

中学生や高校生のキャリア教育の授業を、時々やらせていただく機会があります。授業と言っても、コーチングの切り口と手法を使って、「自分の良いところ」や「自分の夢」、「やりたいこと」などを自分で考えてアウトプット(書いたり話したり)してもらうような授業です。

「こんな内容で進める予定です」と事前に学校側にお伝えすると、「うちの生徒には難しいかもしれません」、「うちの生徒はそんなに書き出すことはできないと思います」と言われることがあります。この反応は、学校の先生がたに限ったことではありません。「こんな授業をさせてもらったんですよ」という話をすると、「うちの子にはできないでしょうね」とおっしゃる保護者の方も案外と多いものです。本当に「できない」のでしょうか?

大人が「できない」と思うから「できない」子どもが現れる

実際、授業の中で、「自分の良いところを100個書き出すシート」や「やりたいことを50個書き出すシート」を渡されると、子どもたちは、最初は固まっています。大人だって、いきなりそれだけ書いてみましょうと言われたら、戸惑うかもしれません。

ところが、これまで、数百名の子どもたちを見てきて、1つも書けなかった子どもは誰もいませんでした。最初は、「自分の良いところ」を1つ2つ書くのが精一杯という子どもも確かにいます。それでも、質問を投げかけながら進めていくと、1時間弱で、10や20は書けるようになります。考え方のコツがつかめると、ゲーム感覚で100個近く書く子も現れます。

大人が最初から「できない」と思うから、「できない」子どもを作っているように私には思えてなりません。「1個しか書けないなんてダメだ」と言う大人と「1個書けたね!その調子!」と言う大人がいたとして、皆さんが子どもだったら、どちらの大人に、自分の夢を語ってみようと思いますか?自分の良いところを一緒に考えてもらいたいと思いますか?接する側のスタンス(姿勢)によって、その子から引き出されるものが変わってくることは容易に察していただけると思います。

コーチのスタンス(姿勢)とは

コーチングは、相手に知識やスキルを「与える」のではなく、自発性や気づきを「引き出す」コミュニケーションです。「引き出す」ということは、相手の中に、もともと自発性、気づき、良いところ、夢や願望などが「ある」というのが前提です。「あるよね!」という視点で、相手の話を聴き、一緒に探っていきます。「どうせないよね」、「あるわけない」とこちらが思った時点で、あっても見えなくなります。

例えば、コーチは、子どもの良いところを引き出していくために、「自分の良いところって何だと思う?」という質問だけでなく、「何をしている時が楽しい?」、「これまで嬉しかったことは?」、「あの時はがんばったって思うことは?」、「前よりもできるようになったことは?」、「好きなものは?」とさまざまな質問をしていきます。

子どもの夢を引き出すために、「やってみたいことは?」、「会ってみたい人は?」、「できるようになりたいことは?」、「もっとたくさんできたらいいなと思うことは?」、「今よりもっとこうだったらいいなと思うことは?」などの質問をしてみます。

と言っても、単に、この言葉を言えば引き出せるという話ではありません。「あなたの中に答えがあるよね」という気持ちで質問することが重要なのです。「私の質問に答えなさい」というスタンスではなく、「あなたの中にある答えを私は聴いてみたいな」というスタンスで質問するのです。

そうしていくうちに、どんな子どもでも必ず、内側から自分の答えを出してくれるようになります。子どもの内側にある可能性を大人の私たちがもっと信じてみませんか。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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