言葉以上に子どもの背中を押すコミュニケーション[やる気を引き出すコーチング]

先日のオランダの教育現場視察において、そのユニークな教育制度や手法以上に、私の心に深く残っている光景があります。
それは、わざわざオランダまで出かけなくても、日本でも出会える光景ではないかとは思うのですが、異国だからこそ、あらためて、コミュニケーションが持つ力に感動を覚えた体験でした。

言葉はわからなくても伝わるもの

今回の視察には、「うちの子もぜひ連れていきたい」という方のご要望にお応えして、中学生と小学生の子どもも日本から同行しました。現地の視察コーディネーターの方や学校側の特別な計らいで、子どもたちは、1日だけ、現地の小学校に体験入学させてもらえることになりました。

願ってもない貴重な機会ですが、さすがに、オランダ語も英語もできない子どもたちには、期待感と共に不安感も大きかったようです。子どもたちが1日体験入学をさせてもらう学校に、前日、視察に行きました。中学生は、最高学年のクラスに入ることになっていました。

クラスの子どもたちのウェルカムな態度や活発な授業風景に触れて、中学生の子も少し安心感を覚えたようでした。それ以上に、彼女の背中を押したのが、担任の先生のコミュニケーションでした。

彼女に笑顔で握手を求め、まっすぐ目を見ながら、英語で語りかけられました。
「緊張していますか? 心配しなくていいですよ。なぜなら、このクラスの子どもたちはみんないい子たちばかりだから。明日は安心していらっしゃい! 待っていますよ」。
そのあたたかいまなざしや穏やかな声のトーンから、彼女に対する歓迎と親愛の気持ちが伝わってきて、私はそばで見ていて、思わず、目頭が熱くなるほどでした。

彼女には、英語はほとんど理解できなかったようですが、先生の気持ちはしっかりと伝わったようでした。初めてのチャレンジに向かう不安が一気に楽しみへと変わりました。言葉はわからなくても、言葉以外の態度から伝わってくる気持ちが子どもの背中を押すのです。この先生の子どもとの接し方に、私も大いに触発されました。

翌日、子どもたちは「すごく楽しかった!」と、前日とはまるで違う高揚した表情で帰ってきました。中学生の子は、「日本に帰ったら、もっと英語を勉強する!」と心に誓ったようです。

ただ向かい合って話を聴く効果

そういえば、日本でも、子どもと一緒に参加するコーチング講座でこんな出来事がありました。
たまたま付き添いで来ていた男性が、中学2年生の子とペアを組んで演習をすることになりました。「いや、私はコミュニケーションなんて苦手で、どうしていいかわからないですから」と最初は及び腰でしたが、「話を聴くだけなら」と中学生と向かい合いました。

男性は、「いまどきの中学生はどんなことを考えているのだろう?」と興味を持って、ただひたすら目を見てうなずいていただけだったそうです。わずか数分間の演習でしたが、話を聴いてもらった中学生は目を輝かせて、「こんなに真剣に自分が言いたいことを聴いてもらったのは初めて! すごく楽しかった! やる気が湧いてきた!」と言っていました。まさにこれがコーチングの本質なのだとあらためて教えられました。

非言語コミュニケーションの雄弁さ

日頃から、「子どものやる気を引き出すためにどんな言葉をかけたらよいのだろう?」と頭を悩ませ、情報を漁ります。
しかし、言葉以外(非言語)のコミュニケーションには、どれだけ心を砕いているでしょうか? 「この子は何を考えているのだろう?」、「今、どんな気持ちなのだろう?」と心を傾け、子どもの目をまっすぐ見ているでしょうか?
「この子に安心感を与えたい」、「この子の応援をしたい」という気持ちで、穏やかに語りかけ、落ち着いて耳を傾けているでしょうか?

言葉かけ以上に、こちらの想いを雄弁に語る非言語コミュニケーションにも、私たちはもっと意識を向ける必要があるのではと思います。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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