子どものやる気をくじかず注意を促す [やる気を引き出すコーチング]

ある小学校でのある日の出来事です。放課後、1年生の子どもたちがあわてて、先生を呼びにきました。「先生! A君がうるさいです! 怖いです!」。驚いてかけつけてみると、A君が傘で黒板をバンバン叩いています。これはいったいどういうことでしょう? このような行動は今回が初めてです。周りの子どもたちもびっくりしています。さて、この場面で、A君にどう対応しますか?

子どもの「意図」を確認する

「何してるの? やめなさい!」
「黒板は叩くものじゃありません!」

まず、注意をしたくなります。そりゃあそうです。今度は、こちらに向かって、傘を振り回されでもしたら、非常に危険です。ところが、この先生は、とっさにこう思ったそうです。「この子のこの行動の背景には何があるのだろう?」。

そこで、A君にかけた最初の言葉は、
「どうしたの? 叩いているのはどういう意味?」
詰問調ではなく、穏やかなトーンで質問しました。すると、A君からはまったく思いがけない答えが返ってきたのです。
「先生のマネしてる!」
「え? 先生のマネ?」
「授業中、棒でこうしてる」

なるほど! そういうことか。どうやら、授業時間に、指示棒を使って説明する先生になりきっていたようです。
「どうして、マネしようと思ったの?」
「大きくなったら、先生になりたいから!」
聴いてみないとわからないものです。別に、むしゃくしゃして暴れていたわけでも、みんなを怖がらせたいわけでもなかったようです。

一見、問題行動と思える子どもの言動を、その背景にある理由も聴かずに、いきなり叱責したら、どうなるでしょう? 行動はいったん改善されるかもしれませんが、「わかってもらえない」という不信感や未完了感を残してしまわないでしょうか。こうした体験を繰り返すうちに、子どものやる気やチャレンジ精神が失われていっていることはないでしょうか。子どもの「意図」を理解しようする姿勢は、子どもの心や可能性を開くきっかけになり得ます。表面に見えているものだけで、すぐに注意をするのではなく、「意図」を確認したこの先生の対応はすばらしいなと思いました。

「意図」と「行動」を分けて扱う

とはいえ、傘で黒板を叩くのはいかがなものかと思いますよね。「それならいいよ。やってごらん」と容認できることとできないことは、やはりあります。緊急性が高く危険が迫っているような状況では、質問などしている場合ではありません。そんな時は、もちろん、「危ないからやめなさい!」と注意することが必要です。ですから、「注意するのはダメです」と言うつもりはありません。危険を排除し、落ち着いてから、その行動の「意図」を確認したうえで、「行動」に対しては注意を促す必要があると思います。

たとえば、こんな伝え方ではどうでしょう。
「そうなんだ、先生になりたいんだ。A君がそう思っていたなんて、先生もとてもうれしいよ。ただ、傘で大きな音を立てるから、みんなはすごくびっくりしたみたい。怖がっている人もいるよ。それで、A君の周りに、みんなが近寄らなくなるのは、先生はイヤだなあ。それに、黒板が傷ついてしまって、授業ができなくなるのは残念だよ」。

「意図」は尊重するけれど、その「行動」は適切ではないことを伝えます。責めるスタンスではなく、「こう感じるよ」というスタンスで伝えるのがポイントです。こちらが、強制的に服従させようとすると、どうしても、相手は反発を覚えます。尊重すべき点は尊重し、改善してほしいことは、こちらがどう感じているかを伝えることで、自分がとった「行動」の影響について考え始めます。

子どものやる気をくじかず、適切に行動できるよう関わっていきたいものです。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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