子どもの心を強くするメンタルトレーニング 【実践編】

スポーツの大会や大切な試合では、普段の練習や技術だけではなく、心を鍛えること(メンタルトレーニング)も大切だといいます。では、実際に家庭でできるトレーニングには、どのようなものがあるのでしょうか。園田学園女子大学人間健康学部教授で、ラグビー日本代表のメンタルコーチを務めた荒木香織先生にお話を伺います。

■生まれつきメンタルが強い子どもはいない

「うちの子はメンタルが弱くて……」という言葉をよく聞きますが、生まれた時からメンタルが強いお子さまというのはあまりいません。私たち大人も、今までの人生での経験や緊張があったからこそ、メンタルが鍛えられてきたのです。また、最も身近な大人にそう言われることこそが、「自分は弱い」と子ども自身も思い込んでしまう原因にもなります。

まずは大人がお子さまの伸びしろをよりたくさん見つけてあげることが、その子の心を強くすることにもつながっていきます。

■子どもが大切な試合やテストを前にした時、保護者はどう接するべき?

大切な試合や試験を前にしたら、親心から、子どもががんばれるような一言をかけてあげたいと思うかもしれません。ですが、子どもは既に学校のクラスやスポーツ少年団など、保護者が所属していないチームや社会に属しており、その中でコーチや仲間に支えられています。そのことを尊重し、保護者はただ見守ってさえあげれば、特に言葉は必要ありません。反対に、何も言わずとも、そうした社会の中での子どもの成長を最も間近で見ていられるのが保護者ならではの楽しみでもあります。

■心を強くするトレーニング方法の例

では、実際にどのようなトレーニングをすれば、自分をコントロールし、メンタルを鍛えることができるのでしょうか。お子さまにもできる方法をご紹介します。

(1)少しがんばれば達成できそうな身近なことに目標を設定する

設定している目標が高すぎると、どうしても不安な気持ちになりますし、心も消耗してしまいます。それを防ぐためには、少しがんばれば達成できることを目標に据えることが有効です。身近な目標の達成を繰り返し、時間をかけて本当に到達したい目標にたどり着くというのが、心の健康という面から見てもよいでしょう。

(2)どのくらいの緊張なら自分は大丈夫なのかを知る

緊張するのは、実は悪いことではありません。大切なのは、どのくらいの緊張感なら自分の最大のパフォーマンスを発揮できるのかを知っておくということ。「緊張しすぎているな」と感じたら、深呼吸をして心を落ち着かせたり、次にご紹介する(3)の内容を実践したりしてみましょう。

(3)頭の中が整理できるような確認事項を作っておく

本番前に一番よくないのは、頭の中が整理されていない状態です。そうならないためには、あらかじめ3つほど「これをしよう」ということを決めて、確認できるようにしておくのがおすすめです。たとえば、「靴のひもはちゃんと結べているか確認する」「水を飲む」など、簡単なことで大丈夫。
基本的なことを確認するしぐさを取り入れることで、心の準備が整い、落ち着くことができます。これを練習のたびに、もしくは緊張を感じた時に繰り返し行います。

これらの方法はぜひ保護者のかたが最初に実際にやってみて、自分をコントロールできる効果があるとわかったことを子どもにもすすめてあげてください。たとえば、「イライラしている時に心を落ち着かせる」「仕事で大事な会議の前に緊張をほぐす」など、日常的な場面で実践してみましょう。「お母さんやお父さんは、こうやっているから、あなたもやってみるといいよ」と言ってあげることができれば、お子さまもやってみようという気持ちになりやすいと思います。

プロフィール


荒木香織

園田学園女子大学人間健康学部教授。学生時代を通じて陸上競技部に所属し、短距離選手として活躍。米ノーザン・アイオワ大にて修士課程修了。ノースカロライナ大グリーンズボロ校でスポーツ心理学博士課程修了。早稲田大学助手、シンガポール・南洋工科大専任講師を経て現職に。

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