『ベネッセ進学フェア2016』講演会 2017年度入試 後悔しない受験校選び
私学教育研究の第一人者である森上展安氏が、受験校選びのポイントをお話しします(『ベネッセ進学フェア2016』講演会 2016<平成28>年5月、東京国際フォーラムより)。
変わりゆく入試問題
最近、人工知能が発達し、囲碁の名人を打ち負かした話題を耳にしていらっしゃるかと思います。
小学生に試験を得意にさせる能力、学習塾などで教える力は、「わかっていなくても、意味がとれていなくても、答案が書けてしまう」というものです。
入試の際、一問にかける時間はおよそ2分といわれています。長文の問題が出る社会科・理科・国語、あるいは短いけれど骨のある問題が出る算数を、「来た」「見た」「勝った」で解かなくてはなりません。つまり、ほぼ見てすぐ解けなくてはならないわけです。そうなると、手順を教えて、手順通りやりなさいというほうに向かいます。これはすなわち、「内容知」=教科について知っている知識を身に付けることです。
ところが、人工知能が発達すると、それだけでは人工知能に勝てなくなってしまいます。意味がわかったうえで、問題を解かなくてはなりません。手順を覚えてできる問題ではなく、「活用知」=初めて解く問題でも、文章の意味を読み取って考えることのできる能力、これを鍛えなければ、将来普及することが予想される人工知能に負けない頭脳を作れません。
知識を使って問題を解く力を付けねばならない……今年の東京大学入試では、既にそうしたことが打ち出されています。
学校選びのポイント
聖光学院中・栄光学園中・麻布中・駒場東邦中など、いずれも今年の倍率は2倍ほどでした。このような状況の中では、普段の偏差値よりも高い学校に合格する可能性もあります。しかし、自分が身に付けている文化とは異なる文化を持つ学校に進学してしまった場合は、入学後が大変です。
今は「同質的」な社会だといわれています。たとえばアメリカの大学に進学すれば、いろいろな人種の学生がいます。今の子どもたちには、そうした大学に進学する可能性もあるわけです。多くの海外大学に進学者を出しているのは、立命館宇治中・高や灘中・高です。立命館宇治中・高からはこれまでに100名くらいが海外の大学に進学しています。これはIB(International Baccalaureate<国際バカロレア>、世界共通の大学入学資格を与える教育プログラム)を行っているからです。おそらく今後IBは有力な選択肢になると思いますが、首都圏では、まだ玉川学園中や、開智日本橋学園中が行っているくらいです。しかし、今後はもう少し増えるはずです。
進学先では、文化の親和性がとても大事ですが、一方で、異文化との交渉がおろそかになるのを学校行事でカバーする必要が出てきます。
これからの学習指導要領
新しい学習指導要領がすべて適用されるのは、今の小4からです。ですから、今の小4からは(大学)入試も変わります。ここで入ってくるのが、よく耳にするようになった「アクティブ・ラーニング」(学修者の能動的な学修への参加を取り入れた学習法の総称)です。
学習指導要領に含まれたアクティブ・ラーニングの具体的な事項で、大きな要素が2つあります。「クリティカル・シンキング」と「アーギュメント・エッセー(議論をとおして自分の主張の根拠を述べる論証法のひとつ)」です。アーギュメント・エッセーは聞きなれない言葉かもしれませんが、私立中学に入学すると、ほとんどの学校で行います。
先日、オックスフォード大学の学生(20代後半)に伺ったところ、小さい時から、家族で食事のたびにさまざまな議論をしてきたそうです。そうした生活の中で、議論が先鋭化し、感情的にならずに論争ができるようになるわけです。これは国語の入試問題が大きく変わろうとしていることに大きく関わってきます。
たとえば福井県の県立高校の問題では、「公園の利用の仕方の議論」を提示して、そのうえでの自分の意見を問われました。つまり、常にエッセーが書ける力……論述のできる、文章を分析して対応を考える力……を習慣化できるかどうかが、入試で必要になるのです。
難関校は、東大の入試問題に合わせて変化するものですが、今後は、中堅校を選ぶ時にも、先を見て選ばなくてはならなくなるものと思われます。
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