変わる大学入試 小中学生が今から身に付けておくべき力とは?【後編】‐小泉和義‐

【前編】では大学入試改革のタイミングと、そこで求められる力についてお伝えしましたが、今回はその「求められる力」を伸ばすための新たな授業スタイル「アクティブ・ラーニング」についてと、家庭でのサポートのコツをベネッセ教育総合研究所・情報企画室長の小泉和義さんに伺いました。



正解のない時代にこそ有用な力を養う「アクティブ・ラーニング」

学校現場で徐々に広がりを見せている「アクティブ・ラーニング」。平たく言えば「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶこと」です。アクティブ・ラーニングを通じて、前回お伝えした「思考力・判断力・表現力」を高めていこうとしています。主体的に学ぶことの必要性はずっと叫ばれ続けていますが、近年、文部科学省が特に強調しているのが「協働的」な学びの必要性です。これからのグローバル社会の中では、今まで以上に多様な価値観を持つ人たちと関わりながら生きていくことになります。変化の激しい時代の中で、そうした多様な人たちと共に、課題解決をしていくためには、協働性が必要不可欠です。先生も答えを持っていない問いを、みんなで解決していくアクティブ・ラーニングは、まさにそうした姿勢を養うための新しい手法です。



評価基準が定まっていないという課題も

先日、ある中学校で、実際にある駅前再開発プロジェクトに提案する企画を考える授業を見学しました。授業では、住民代表、通勤・通学者、観光客、イベント会社という4つの立場に分かれたチームをつくり、それぞれの立場での最良の再開発案を提案します。自分たちのチームが考えた開発案のメリットを徹底的に考え抜き、他のチームからの反対意見に対して、自分たちのチームの開発案の正当性を主張します。その後、4つのチームから1人ずつで新たなチームをつくって再び議論を深め、その中で互いが納得できる解を導き出していくというものでした。この授業は「アクティブ・ラーニング」の一つのモデルだと思います。
主体的に議論に関わりながら、最終的にはいかに協働的に問題解決できるかを問う授業。正解がないなかで、よりよい解決策をとことん考え抜くプロセスが重要になります。こうしたアクティブ・ラーニングの手法を使った授業は今後広がっていくと思いますが、そこで身に付けた思考力をどう測定し、評価するのかは、学校現場でも試行錯誤の段階です。

前述した中学校では、「思考の可視化」の方法をとっていました。授業の最後の5分間で振り返りの機会を設け、各自が授業でどのようなアクションを行ったかをざっとメモします。そのアクションの中で、自分が思考力を発揮した部分に、学校から配布された10種類の思考に分けたシール(この学校では、「比較」「類推」「抽象化」「具体化」など10種類の思考を定め、シールにて生徒に配布していました)を貼ります。そうすることで生徒は自分で振り返りができ、先生は生徒がいつ、どういう観点で思考したかがわかります。しかし、これは一つの例に過ぎません。思考力・判断力・表現力がどのレベルなのかをどのように測定し、評価するのかは、まだ答えが出ていない課題なのです。



これから求められる力を身に付けるために、家庭でできるサポートは?

このように、新しい力が強く求められていくなかで、何か特別な対策をしなければ乗り遅れてしまうのではないか?と不安を感じてしまうかたもいるでしょう。ですが、大学入試改革を一つのめどとして、学校自体もどんどん変わっていきますから、基本的には学校の指導をちゃんと受けていれば問題はありません。ただ一つ言えることは、知識・技能だけでなく、考え判断し表現する力(思考力・判断力・表現力)は、これからの世の中で間違いなく求められる力だということ。ですから入試が変わるかどうかは別として、小中学生の今の段階から、日常的にそうした力を伸ばすクセを付けておくことはとても重要です。



子どもを伸ばすヒント「決める・褒める・考える」

社会でも入試でも求められる「思考力・判断力・表現力」を、家庭でも意識的に養っていくためには、親子の間の信頼関係と、子どもの主体性を育てていくことが必要です。その中で、まずは子ども自身が「決める」習慣を付けることが大事。ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに関する実態調査」(2014<平成26>年)でも、親が「子どもが自分で決める機会を設けるようにしている」家庭の子どものほうが、「勉強に自信がある」割合が高いという結果が出ています。

「決める」時に大切なのは、いきなり重要なことをがっちり決めさせるのではなく、ご飯の時間やお風呂の時間など、どちらに転んでもいいような決定の機会を日常的にたくさんつくるということ。初めはとりあえず「仮決め」でかまいません。また、「失敗ができる」環境をつくってあげることも大切です。失敗したらなぜうまくいかなかったのか振り返るのを忘れずに。次に成功するための重要なチャンスにすることができます。もう一つ重要なのは、決めたら必ず「続ける」こと。1週間でも、1か月でも、半年でもかまいませんが、その期間は何があってもとにかく続けさせてください。そうすることで、決めることと責任を取ることが表裏一体だという気付きにつながります。また、「褒める」時のコツは、プロセスを具体的に、本気で褒めること。「決める」と「褒める」を日常的に意識して行うことで、子どもの主体性と自己肯定感を高めていきます。

このようにして、小学校中学年ぐらいまでには「自分で決める」力を身に付けられているとよいでしょう。また、特に小学校高学年以降は子どもとの会話の仕方を工夫して「考える」ためのコミュニケーションを大事にしてほしいと思います。たとえば、「どうしてかな?(原因追求)」「どうすればいい?(解決策模索)」の2つの問いを常に頭に置いて子どもと話すと、子どもに主体的に考えさせることができます。また思春期になると、親とあまり会話をしたくなくなり「風呂」「飯」「寝る」など、会話が単語だけになったりします。そうした時期こそ、親から話しかける際には、主語・動詞・目的語を含んだ文章で丁寧に話をし、子どもにも文章になるように話をするよう促しましょう。文章というのは論理的に構造を考えなければ作れません。文章で話すことを心がけることで、考える力を伸ばすことができるのではないかと思います。

今後10・20年で、今ある職業の半数が機械化されるといわれています。答えが決まっている仕事は、コンピューターやロボットが速く正確にやってくれる。そんななかで人間が何をするかといえば、正解のない問いに対して最適解・納得解を導き出し、新たな価値や仕事をつくっていくことです。そんな世の中で生きていく子どもたちには、「思考力・判断力・表現力」そして「主体性・多様性・協働性」が、本気で求められます。ぜひ家庭の中でも、こういった力を養うことを意識して、まずは保護者自身がお子さまとの関わり方を変えてみることが大切です。

プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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