もしも子どもが大きな問題を起こしてしまったら?親ができる一番大切なこと【夜回り先生】

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子どもがとんでもなく大きな問題を起こしてしまうようなことがあったとき、それはその子の家庭に何か「問題」があるのであって、今の我が家とは関係のないこと……本当にそう言いきれるでしょうか。
親が子どもを追い込んでしまうことは、特殊な環境だけで起こることではないようです。どうしたら、子どもが幸せに生きられるのか、「夜回り先生」こと水谷修さんに教えてもらいました。

この記事のポイント

心を病んでしまう子どもが育つのは、環境に問題がある

私は30年以上にわたって、病んでいる、苦しんでいる子どもたちに、ずっと寄り添って生きてきました。
非行に走って夜の街にいる子ども、心を閉ざして不登校になった子ども、心が傷つきリストカットやOD(オーバードーズ。処方薬や市販薬を大量に飲むこと)によって、なんとか今の苦しみから逃げようとしたりする、そんな子どもたちです。

同時に、そういう子どもたちを育ててきた親、家庭も見てきました。絶え間ない夫婦げんか、離婚、ネグレクト、貧しくて洋服も買えない食べ物も食べさせられない家庭。そんななかから非行に走ったり、心を病んだりする子はたくさんいます。

「なんで」ということばで子どもを責めないで

夜回り先生として、補導された子どもと一緒にいて、補導された子どもを迎えに来た親が、子どもをしかり飛ばすことがあります。
「なんで人のものを盗ったりしたんだ。そんな子に育てた覚えはない」と言ったりします。本来は、そうではなく「本当に申し訳ない。うちの子がこんなふうにするのは私にも原因があって、自分を責めている」と言ってほしいものです。

私がいつも違和感を持つのが、この「なんであなたは」という子どものせいにすることばです。これは、普通だと思われている家庭の場合でも同様です。

子どもが勉強しないとか、学校に行きたくないと言ったときに、親は子どもを責める。
「なんであなたはこんなこともできないの?」
「なんであなたはこんな点数を取るの?」
「なんであなたは学校行かないの?」と。

でもよく考えてみてください。その子をつくったのは、その年齢までの過程のはずです。それは、親がそうなるように育てたからではないでしょうか。

子どもをしかってはいけない

子どもの問題行動は、必ず何かのサインだと考えてください。
それは、「もっと愛してほしい」かもしれないし、「違う道を選ばせてほしい」かもしれない。そうしたサインを子どもが発していると受け止めながら、子どもと一緒に次の道を考えること、それがとても大事です。

子どもをしかるのはやめてください。
ともかくしかってはいけない。悪いことをやったと自覚している人間をしかるのは、傷口に塩をすり込むのと同じです。

さまざまな大人と会うことは、多様な物の見方ができる子どもに育てること

子どもが問題を起こしたら、そう育てた親の力だけで子どもを変えていくのは大変なことです。
そのために私たち教員や夜回り先生がいるわけです。協力してくれる人間は、NPOを含めてさまざまな団体が、ネットなどで検索すればあるでしょう。当然、すべてが正しいものとは限りません。取捨選択して、自分の考えと整合性をとりながら、多くの人の話を聞いてみてほしいです。

何より大事なのは、子どもたちをいろいろな人に会わせて、多様な意見を聞かせること。とくに小学生までは、子どもが知っている大人の人間といえば、親か先生くらいのものです。だからこそ、それ以外の大人と出会うことで、こういう見方をする人もいる、こういう考え方もある、ということを知って経験を豊かにして、多角的な考え方を持つようになるのです。

同時に、大人もさまざまな子どもとコミュニケーションをとる

大人も、さまざまな子どもを見る必要があります。
我が子がいじめられない方法として、一つの案をご紹介しましょう。それは、できるだけ自分の家に子どもたちを呼ぶことです。家に呼ばれて一緒におやつを食べたり、話を聞いてもらったりしたら、そこのうちの子をいじめたりはしないものでしょう。

そういうコミュニケーションがあってこそ、こんな子もいると大人は知ることになります。家に人が来ることに抵抗があるなら、公園で会うのだっていいんです。そうした交流が、多様な考え方を知ることにつながっているのではないですか。

不安な気持ちを親に話せないのはなぜか

自ら命を絶つ子がいます。
私に相談してくれた子どもたちの中にも、死を選んでしまった子がいます。
とても悲しいことです。
なぜ親に相談しないのでしょうか。なぜ命を絶ったら親が最も悲しむと知りながら、命を絶つのでしょうか。

また、中学生や高校生の子どもが同級生を殺してしまう痛ましい事件が起こっています。
人を殺したら、親や、おじいちゃんおばあちゃんが、すごく悲しむと知っているのに、なぜ人を殺すんでしょう。なぜ、親に話さないのでしょう。

子どもが親に「私はこれから、どうしたらいいんだろう」と話ができる関係をつくるためには、日頃から子どもの話を聞くことができる親でいる必要があります。

子どもが問題を起こすことがあれば、顧みるべきは親自身

小学校高学年にもなると、子どもが思っていることを親に話さない、ということがあるでしょう。
このときにも、「学校のことを、なんで話してくれないの?」ではなく、「なんでうちの子は、私たちに話さないんだろう。なんでそんな育て方をしてしまったのだろうか」と、保護者はまず、自分について顧みてほしいのです。

子どもというのは、それまでの親がつくった作品でしょう。その作品に何らかの問題が生じるということは、その作品をつくり上げた親、家庭に問題があるからではないですか。この意識を持ってほしいです。
この発想の転換をしない限り、子どもたちは変わりません。

子どもにうそつきと思われることが一番怖いこと

私にとって、ただ一つ、怖いことがあります。
それは子どもにうそつきと言われること。だから、夜回りを65歳になってもやめません。そして、生徒の前で一度もネクタイを取ったことはないし、しゃべり方もいつも一緒です。だらしのない姿は子どもに一切見せません。

自分自身の生き方を、子どもの見本になるようにと生きてきました。それを子どもたちは見て学びます。子どもたちは私を信じているから、信じられた姿で生きていくんです。

子どもから信頼されるのは、どういう大人か

信じることができない、尊敬できない相手に、子どもは話をしようとは思わないでしょう。
昼過ぎまでパジャマ姿で過ごしていたり、酒を飲みながら話したりする父親や、外では上品に振る舞っていても、家の中ではだらけた姿で言葉遣いも荒い母親。
このような大人に、子どもはまともに話をしたいとは思えないでしょう。
最近は、黙って子どもの話を聞くどころか、黙ってスマホを見てばかりいる親もたくさんいます。

このような親は、家にはいても、子どものほうを見ていないわけです。
親自身も子どもの理想の存在になれるよう、日々努力をすることが必要なのではありませんか?

厳しいことかもしれませんが、少なくとも、子どもの前では、1回に一つのことしかしないでほしい。話をするときには、ごはんを食べながらなどではなく、きちんとお互いに向き合って、話だけをしてほしいものです。

大人が黙っていたら、子どもは自然と話し始める

なぜ子どもたちが私を信じて、私に話をしてくれるのでしょうか。
それは、私がただそばにいて話を聞き、この子にとって私が今できることは何かと考えて、子どもに夢を語らせるからです。

でも、大人たちは、子どもがしゃべる前にしゃべってしまう。
子どもが小学校高学年になって、あまり自分のことを話さなくなって不安と思うなら、1週間、親はひと言もしゃべらずに過ごしてください。
そうすると、子どもからしゃべり始めます。じっと悲しい顔をして黙っていたら、子どものほうから聞いてきますよ、「お母さん何かあったの?」と。

子どもの語彙に合わせて、理解ができるように話し、時間をかけること

子どもが話し始めるのを待つことなく、大人が先にしゃべってしまったら、子どもは黙ってしまうのは当たり前です。
親は、自分の言ったことは、子どもはなんでも聞いてわかっていると思っているでしょう。

でも、小学生には小学生の語彙(ごい)しかないし、理解力も小学生なりの意味の把握しかしていないわけです。それなのに、親が自分の生きてきた時間分の語彙で、機関銃のように言葉を繰り出したのでは、子どもたちは理解できません。ことばというのはその人の人生そのものなんですよ。

子どもたちは、親が言ってきたことのうち、おそらく2割か3割くらいしかわかっていないでしょう。子どもたちの言葉のレベルで話してあげなくては、伝わりません。

そして、子どもへの接し方を変えていくときには、態度を変えた翌日から子どもが変わるとは思ってはいけません。それまで10年もの間に繰り返されたことの影響が、ひと言やふた言、1日や2日、1か月や2か月で変わるわけではありません。それまでの期間の、せめて3分の1ぐらいの年月・時間はかけて変えていくつもりでいてください。

まとめ & 実践 TIPS

子どもが何か問題を起こしたときに、親はまず、自分の育て方が問題であることを受け入れましょう。
子どもに対する「なんで○○できないのか」ということばを、そのまま「なんで自分は○○な子どもに育ててしまったのか」と考えること。そして、親が今までの自分の子育てを反省して、自分のありを変え、子どもに対して恥ずかしくない大人になることが大切だと水谷さんは言います。
子どもを変えたかったらまず、親自身が変わることが必要なのです。

取材・文/関川香織


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プロフィール

水谷修

水谷修

公立高校、特別支援学校、大学の教員として20年以上にわたり働き、並行して30年以上、子どもたちの非行防止や薬物汚染の拡大防止のための自主パトロール「夜回り」を行う。電話やメールによる子どもたちからの相談を受け、講演で全国を駆け回る。

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