「当たり前」を育む夏に[受験の天王山、夏をどう過ごす? 第4回]
夏休みこそ勉強以外の習慣も身に付けさせる
この5月、6月は合同進学相談会での講演を5回ほどしました。その中の一つでは、塾の先生、企業のかたと私とでパネルディスカッションを行いました。メインのテーマは「公立高校と私立高校の比較」でしたが、話題はいろいろなことに及びました。
司会者が塾の先生に、「この地区のトップ校、県立〇〇高校に入るには内申がどのくらい必要なのですか?」と、来場者の関心が最も高いと思われる質問をしました。「9教科5段階評価45点満点のうち、前期選抜であれば42くらいは欲しいですね」「えっ、そんなに! うちの子はとうてい無理だ!」……壇上からも、保護者のかたのそんな感想が表情から見てとれました。
企業のかたが「今企業が求める人材」ということで、話をされ、その中で自社の採用状況の話が出ました。5万人がエントリーし、3万人が会社説明会に参加し、8回に及ぶ面接を経て30人を採用したそうです。1700倍という倍率に、ここでもまた、大きなため息が漏れました。
保護者のかたに安堵(ど)の表情が浮かんだのは、企業のかたが個人的なエピソードとして、次のような話をした時です。
≪地方の中堅私大を出た友人がいる。学業に熱心だったわけでもなく、これといった特技もない。国内に就職口はなく、しかたなく「ワーキングホリデー」を利用して海外に出た。数年して訪ねたところ、明るく元気に働いていただけでなく、現地の会社でマネジメントまでしている。「おまえ、どうしちゃったの?」と聞くと、「約束の時間の5分前には来ている、列に並ぶ、ゴミを拾う……といった日本人としては当たり前のことをしていただけで、こっちではすごく評価されるんだよね」という言葉が返ってきた≫
「グローバル社会のリーダー」「社内の公用語は英語」「TOEIC(R)テストが600点以上ないと採用されない」……最近はそうしたことがしばしば報道されます。こうしたものを日々目にしていると、保護者のかたとしては焦ってお子さまのお尻をたたきたくなるかもしれません。
しかし中学生ともなると、本人に自覚がないところで、いくら叱咤(しった)しても効果があるとは限りません。こんなことを言うとお怒りになる方もいらっしゃるかもしれませんが、時にはわが子の実力を客観的に眺めることも必要なのではないでしょうか。
それでも、お話ししたようなエピソードに見られるような力を身に付けるくらいのことであれば、我が家でも「何とかなりそう」に思えませんか。「当たり前のことができる力」は間違いなくお子さまの将来を支えてくれる力のひとつになるでしょう。
この夏は勉強以外の習慣も身に付ける機会としてとらえ、大切に過ごしていただきたいと思います。