最新の研究・調査から見えてきた、中学・高校生の英語学習の実態と課題は?【前編】-加藤由美子-

2013(平成25)年12月13日、文部科学省は「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を発表。小学校での英語教育の強化と共に、中学・高校における英語教育目標や内容の高度化について述べています。2013(同25)年度より施行されている高校の学習指導要領には、「英語の授業は基本的に英語で行う」という方針が盛り込まれていますが、今回の実施計画では、今後この方向性をさらに推し進め、2020(同32)年度以降、中学でも授業を英語で行う、高校では発表や討論などの活動を通じて、より高度で実践的な英語力を付けさせる方針を打ち出しています。

これに対し、中高生の英語学習や入試の実態はどうなっているのでしょうか。
2013(同25)年12月1日、上智大学・ベネッセ英語教育シンポジウム「これからの中学校・高校での英語の指導を考える」 で発表した研究内容を、2回に分けて紹介します。

1回目の今回は「中学生・高校生の英語学習実態から考える指導と学び」についてです。



「左に英文、右に和訳」の、伝統的な学習スタイル

ベネッセ教育総合研究所では、2009(同21)年に「第1回中学生英語に関する基本調査」を行い、中学生の英語学習の実態について明らかにしています。今年度の研究では、生徒の学習内容や意識をより詳しく知るため、さまざまな背景を持つ16人の中高生に一人30~40分の詳細インタビューを行い、その結果をTAE(Thinking at the Edge)という研究手法を用いて分析しました。
そこから見えてきたのは、ほとんどの生徒が「左に英文、右に和訳」のノートを作成するという「伝統的な文法訳読の授業」のために予習を行っているということでした。また、生徒たちの中で、英語の勉強と「英語を使うこと」は別物であり、つながっていないこともわかってきました。



中高生の中で「英語学習」と「英語を使うこと」はつながっていない!?

ここでは16人のインタビュー分析より、代表的な4例をご紹介します。

(1)中学生 Aくんの場合(男子 公立中学校)
「英語を頭に入れるため」、書いて覚える、声に出して読む、ノートの取り方を工夫するなど、自分なりの学習法を持っている。一方、英語のCDを聴いたり、アニメの英語版を動画コンテンツ共有サイトで見たりもするが、あくまで楽しみのため。
 → 成績を下げないための英語学習と、英語にふれる自主的な活動は本人の中で別物。

(2)中学生 Bさんの場合(女子 公立中学校)
定期テストの成績が落ちたことがきっかけで「私、大丈夫かな」と思い、英語の問題をたくさん解くようになった。問題演習や暗記をがんばれば、成績が上がると期待している。
 → 試験で点をとることが勉強の目的。

(3)高校生 Cくんの場合(男子 公立進学高校)
中学時代は好きな先生の影響で英文をたくさん読むようになり、「読める」醍醐味(だいごみ)を味わった。ところが、高校の授業は文法事項を細かく解説し、英文を逐一日本語に訳していくスタイルのうえ、大量の小テストが課されるため、英語学習に楽しさを感じられなくなり、その結果、成績も下がり始め、自信も失いつつある。
 → 高校の授業の内容にも、それに対応しきれない自分にもいらだっている。

(4)高校生 Dくんの場合(男子 公立進学高校)
幼いころ祖母がABCソングを歌ってくれたこと、小学校で英会話教室に通ったこと、中学でオーストラリアに短期ホームステイに行ったことなど、楽しい英語体験をたくさんしている。その結果、中・高の英語学習にも適応し、文法や語彙(ごい)の知識を、ALT(外国語指導助手)との会話や英語のプレゼンテーション番組を見るといった、英語をリアルに感じる体験につなげることができている。将来の夢は英語を使って学会で発表するような言語学者。
 → 楽しいコミュニケーション体験と学校での学びを、自ら納得してつなげている。

これら4人の事例に対し、シンポジウムに参加した中学・高校の先生方からは、「成績のための勉強と、日常に楽しみでやっていることをどうにか統合してあげられないか」「Cくんは英語嫌いになっている多くの日本人が通ってきた道を進んでいる」「授業内に限らず、知的好奇心を刺激し続けることが大切だ」などのコメントをいただきました。



学校の授業が変わらないのは、入試のため?

現在、文法解説と英文和訳中心の伝統的な指導スタイルから、英語を使う力を強化する「言語活動」をたくさん行うことへの転換が求められています。中学や高校の先生方はさまざまな努力をされ、文部科学省も研修会の開催や模擬授業のDVD配布などのサポートをしています。とはいえ、言語活動にはノウハウが必要であり、先生方からは導入が難しいという声も上がっています。
また、指導スタイルがなかなか変わらない理由のひとつとして、よく聞かれる声に「高校入試や大学入試が必ずしも『使う力』を問うものになっていないから」というものがあります。
私たちは今年度、2003(同15)年度と2013(同25)年度の、全国の公立高校の入試分析を行い、英語を使う力を問う問題の変化についての研究も行いました。

次回は、この高校入試分析に見る、「英語を使う力」を問う問題の変化についてと、中学・高校生の英語学習の課題について考察します。


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。

プロフィール


加藤由美子

1987年(株)ベネッセコーポレーション入社。1997・98年Berlitz・Singapore学校責任者として駐在。帰国後はベネッセの英語教育事業開発を担当。
研究部門異動後は、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発やARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)の立ち上げ、小中高校生の英語学習実態調査、中高の英語指導調査、英語力を上げた学校の研究などに携わる。2019年度からは言語教育研究にも携わる。文部科学省「国際バカロレアに関する国内推進体制の整備」事業審査委員(2021年)。

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