中教審「答申」 どうなる!義務教育のゆくえ

10月26日、中央教育審議会(以下:中教審)は、答申(「新しい時代の義務教育を創造する」)をまとめました。このなかには、マスコミでも取り上げた「義務教育国庫負担金」をはじめとする費用負担のあり方についても言及されています。義務教育のありかたについてまとめられた今回の答申によって、日本の義務教育はどのように変わっていくのでしょうか?今回から3回にわたって、これからの日本の義務教育について考えていきます。

これからの教育のゆくえを決める、義務教育特別部会

ご存知の通り、中教審の役割は文部科学大臣の諮問に応じて審議し、意見を述べることです。そのなかで、2005年2月からスタートしたのが、「義務教育特別部会」でした。義務教育特別部会は、義務教育のありかたについて専門的な調査審議を行なうために特別に置かれた部会です。



義務教育特別部会の開催にあたって、中山前大臣は次の5項目について審議するよう要請しました。

(1) 義務教育の制度・教育内容のありかた
(2) (義務教育に関わる)国と地方の関係・役割のありかた
(3) 学校・教育委員会のありかた(教員養成のありかた)
(4) 義務教育に係る費用負担のありかた
(5) 学校と家庭・地域の関係・役割のありかた

そして、「新しい時代の義務教育を創造する」(答申)を10月末にまとめました。答申には、義務教育の改革の方向性と具体的な改革策などが記されています。この義務教育特別部会は実質8か月の間に41回、およそ100時間もの審議を重ねてきましたが、最も多くの審議時間を費やしたのは、義務教育費の国庫負担制度でした。義務教育費を負担するのは国か?それとも地方か?という点について、全国知事会など「地方六団体」の代表委員と、有識者や研究者、教育関係者などで構成される他の委員が互いの意見を譲らなかったため、多くの時間が費やされてしまったからです。

※中央教育審議会答申の概要(pdfファイル)
※鳥居泰彦中央教育審議会会長 記者会見概要


義務教育費は国と地方、どちらが負担すべきか

義務教育費国庫負担制度*とは、公立の義務教育諸学校の教職員(70万人)の給与費(約4.2兆円)の半額の約2.1兆円を国が負担するという制度です。義務教育費国庫負担法の第一条に、「義務教育無償の原則に則り、国民のすべてに対しその妥当な規模と内容を保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上を図ることを目的とする。」とこの法律の目的が記されています。

これに対し、公立中学校の教職員給与分(8,500億円)の国庫負担を削減し、地方に税源を移譲しようという案が出されました。しかも、地方に税源を移譲する際に、用途を義務教育に限らない一般財源にするというものです。地方六団体選出の委員はこの案の導入を強く要望していました。最終的には、残りの小学校などの教職員給与もこの方向で税源を地方に移譲しようという意見です。


一方で、義務教育特別部会の審議のなかで、義務教育費国庫負担金の地方への税源移譲案に対して多くの委員から反対意見が出されました。税源の地方移譲によって、義務教育費国庫負担法にも記載されている「教育の機会均等とその水準の維持向上を図る」ことができなくなるのではないか、というのが反対の主な理由でした。国も大きな借金を抱えていますが、地方自治体の財政も非常に厳しい状況です。
このようななかで、全国の地方自治体は一般財源化した予算をすべて義務教育に使ってくれるのだろうか?福祉などに予算の一部をまわす自治体も出てくるのではないか?となると、義務教育に関する条件の地域間格差が拡大してしまうのではないか、という懸念です。審議のなかでも、教職員の給与の格差が広がって、優秀な人材が集まりにくくなる地方自治体が出てくるのではないか、と指摘した委員もいました。
実は、昭和25年に義務教育費国庫負担金を廃止し、教育条件の地域格差が拡大したという苦い経験があるのです。また、全国の市町村議会の約3分の2が、義務教育費の国庫負担制度を支持しているということも反対意見を支えるものとなっていました。

この義務教育費国庫負担金の削減と地方への税源移譲は、国と地方の税財政を見直す「三位一体改革」に盛り込まれていたものです。
多くの国民は、良い意味での、地域や学校単位での特色作りは別にして、教育条件の地域間格差が拡大しないことを希望するでしょう。そのためにも、もう少し、この義務教育費国庫負担に関して、子どもをもつ親などに向けてもっとわかりやすく説明することが必要でしょう。

次回は、この中教審の審議を通して、行政としての責任を負う文部科学省の義務教育改革へのビジョンを具体的に聞いてみたいと思います。義務教育はこれからどうなるのか、今回の中教審の答申のもつ意味は何か・・・・を探ります。ご期待ください。→次へ

* 諸外国の義務教育費国庫負担制度をみてみると、イギリスでは2006年度から全額国庫負担とする予定です。今までは州の教育にまかせていたアメリカでも、連邦政府からの支出を増加させています。フランス、ドイツ、イタリア、韓国などは、義務教育の教職員について給与費の全額を国の負担としています。

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