「ポストコロナの学び」のキーワード 「ウェルビーイング」「エージェンシー」とは?

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教育再生実行会議が、「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」と題する第12次提言をまとめました。そのキーワードとして、「ウェルビーイング」と「エージェンシー」を盛り込んだことが注目されます。「また横文字?」「ただでさえ学校は多忙なのに、新しい教育課題は勘弁してくれ」と思う向きもあるかもしれません。しかし両者とも、まったく新しいことを求めるものではないようです。新型コロナウイルス感染症に限らず、何が起こるかわからない時代の社会に出ていく子どもたちの教育を、どう考えればよいのでしょうか。

この記事のポイント

心身ともに幸福な社会を目指して

二つのキーワードは、経済協力開発機構(OECD)が近未来の教育を世界に提案する「Education2030プロジェクト」の中で打ち出されています。ここでは、生徒(学習者)が身に付けるべきコンピテンシー(資質・能力)を再定義するとともに、学習の枠組みを提案しました。
ウェルビーイングは、「人々が心身ともに幸福な状態」を指します。もともとは世界保健機関(WHO)憲章草案で「健康」の定義として示されたもので、OECDも近年、教育に限らず、あらゆる分野で重視しています。
エージェンシーは、なかなか訳しづらい言葉ですが、「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」のことだと説明されています。自分の人生はもとより、周りの世界に対して、良い方向に影響を与える能力や意志を持つことを示しています。
Education2030プロジェクトでは、人生を登山になぞらえて、生徒が、コンピテンシーで構成された「ラーニングコンパス」(学びの羅針盤)を持ち、その中核であるエージェンシーを発揮して学びながら、ウェルビーイングという頂上に向かっていくイメージを示しています。

想定外や不透明な社会を切り開く力に

実行会議は、ポストコロナ期の学びを考える際、▽従来の方程式では解が見つからない社会問題にどう取り組むか▽幸福度や自己肯定感、当事者意識が低い子どもたちの意識をどう高めるか▽想定外の事象と向き合い、対応する力や、不透明な未来を切り開く力をどう養うか——などの課題を解決するには、「ウェルビーイングの理念の実現を目指すことが重要」(第12次提言)との結論に至ったといいます。
その上で、社会を構成する当事者として、自ら主体的に考え、責任ある行動をとることができる個人を育むためには、教育を学習者主体に転換していく必要があるとしています。そこでは、生徒自身が「生徒のエージェンシー」を発揮しながら学んでいく姿勢が求められます。

実は新しい指導要領とも連動

新しい学習指導要領が、2020年度の小学校を皮切りに順次、全面実施に入っています。新指導要領は、実はEducation2030プロジェクトと連動して、改訂を検討してきたものです。
つまり新指導要領の狙いを達成すること自体が、エージェンシーを発揮してウェルビーイングに向かう学びを進めることになります。裏を返せば、ウェルビーイングやエージェンシーの考えを理解すると、新指導要領での学びが進めやすくなることでしょう。

まとめ & 実践 TIPS

エージェンシーは、生徒だけのことではありません。教師はもとより、保護者などの大人も「共同エージェンシー」を発揮することが求められます。子どもも大人も、ウェルビーイングに向かって学んでいくコミュニティー(共同体)の一員です。
人は何のために学ぶのか、進学や卒業にとどまらない究極の目的を、改めて考えたいものです。

出典
教育再生実行会議 提言
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/teigen.html

OECDラーニングコンパス2030コンセプトノート
https://www.oecd.org/education/2030-project/teaching-and-learning/learning/all-concept-notes/

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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