今なぜ「すべての人に無償の普通教育を」!?

日本学術会議が、「すべての人に無償の普通教育を—多様な市民の教育システムへの包摂に向けて」と題する提言をまとめました。義務教育は昔から無償(授業料を取らないこと)のはずですし、高校も実質無償化になっています。今なぜ「すべての人」を教育に「包摂」することが求められるのでしょうか。

この記事のポイント

社会に生きるための教育

サブタイトルにある包摂(包みいれること)というのは、なじみのない言葉ですが、むしろ英語のインクルージョン、教育で言えば「インクルーシブ教育」を例にすると、分かりやすいかもしれません。
かつて「特殊教育」と呼ばれていた障害のある子どもの教育は、2007年度から、対象を発達障害にも広げた「特別支援教育」に衣替えしました。そのうえで、障害をのある子も、健常の子どもも、可能な限り共に学ぶ、インクルーシブ教育が求められています。社会に出れば、障害があってもなくても、同じ社会に生きる市民だからです。

高校までの「普通教育」が必須な時代に

日本国憲法は、すべての国民に、教育を受ける権利を保障するとともに、保護者に対しては、子どもに「普通教育」を受けさせる義務を課しています。学校教育法では、小学校で「基礎的な普通教育」、中学校で「普通教育」、高校で「高度な普通教育と専門教育」を行うとしています。
提言では、法律にある「国民」を、日本国内に居住するすべての「市民」と広く捉えるともに、普通教育を「市民として生きていくために必要な基礎的知識や技能を身につけるための教育」と表現しています。ほとんどの生徒が高校に進学するなか、日本社会で生きていくには、今や義務教育を保障するだけでは足りません。国籍を問わず、日本で生きるどの子にも、高校までの普通教育を無償で保障することが必須になっている、というわけです。

格差が進み排除される人も

しかし、かつて「1億総中流社会」と言われた日本にも、1990年代の初めにバブル経済が崩壊してから、「格差社会」が広がっていきました。そうした中で、気が付かないうちに弱者を社会的に「排除」してしまっている現実もあるといいます。だからこそ今、「包摂」が必要だ、というわけです。
提言では、教育的に不利な環境の下に置かれる子どもを、「不登校」「外国籍」「障害」「貧困家庭」など六つに分けて、国、自治体、各学校に、対策を求めています。これらの子どもたちを包摂できれば、要するに、すべての子どもが、共に学び、将来の社会を共に担っていってほしい、というわけです。

まとめ & 実践 TIPS

近年の日本では、東日本大震災をはじめとした自然災害が頻発するとともに、新型コロナウイルス感染症の拡大で経済の先行きにも不安が広がっています。誰もが弱者にならないとは限りません。普段は見過ごされがちな弱者への想像力を持って、教育の在り方を考えることが必要です。それが個人や家族のみならず、社会全体の幸福につながるのです。


日本学術会議 提言・報告等
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/division-15.html

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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