9月入学実現のハードルは

政府は、現在4月となっている学校の入学時期を、9月に変更するかどうかの検討を行っています。来秋からの実施を視野に、まずは論点を整理したい考えです。背景には、新型コロナウイルス感染症の影響で3月以降、休校が長期化し、授業の遅れを取り戻すことが大変なことがあります。この際、ピンチをチャンスに変え、欧米などの「国際標準」に合わせようというアイデアです。実現の可能性は、どれだけあるのでしょうか。

大学は比較的やりやすいけれど…

9月入学といえば、東京大学が2011年に「秋季入学」への移行を検討したことがあります。やはり欧米などに合わせることで、留学や教員交流をしやすくすることが主な目的でした。この時には高校生が3月で卒業することを前提として、4月から入学までの間に「ギャップターム」という猶予期間を設け、国内外でさまざまな体験をしてもらうことで、入学後の意欲につなげることも狙っていました。
しかし2年後、秋季入学への全面移行は見送られました。代わりに導入したのが「4ターム制」(4学期制)です。秋学期から入学したり留学したりすれば、海外との行き来がしやすくなります。東大の提起を機に、4ターム制を取り入れる大学が続出しました。
つまり今でも大学では、9月入学に移行しようと思えば、できないことはありません。ただし、それには就職活動の時期もずらすか、新卒一括採用を一気に通年採用に変えるなど、長く続いた大卒採用の慣行を見直すことが不可欠になります。また、初年度は企業も半年間、大卒者が採用できなくなりますから、人材確保という点では痛みを伴います。

半年伸びた分をどうする?

もっと大変なのが、幼稚園・保育所や小・中・高校などです。
もし来年から9月入学にした場合、現在の小・中・高校生も、休校で遅れた分の授業日数を確保できます。しかし、それだけ在学期間が延びることになり、保護者の負担が増すことは避けられません。受験時期がどうなるかも心配です。
一方、来年度に小学校への入学を迎える子どもは、どうなるのでしょうか。8月生まれの子まで9月に入学させるとしたら、新入生の数も1.5倍近くになります。クラスが増えれば先生の数も増やさなければなりませんし、教室の確保も必要になります。一方、4~8月も幼稚園や保育所で受け入れる必要があり、園側にも負担になります。もちろん、保護者の負担も増します。
ところで、現在の学校は、4月から3月までを一つの学年とすることを前提に、すべての制度が成り立っています。たとえば、その年度の児童生徒数は、新学期に入って1か月後の5月1日で確定させ、それをもとに、先生の数や、予算なども確定します。その他にも、たくさんの法令がからんでおり、改正作業だけでも膨大になります。
何より明治以来、四季に合わせて効果的に、全人的な教育活動を展開してきたのが、日本の学校教育の「強み」です。そんな年間の教育活動も、一から見直さざるを得ません。しかも、修学旅行の時期、部活動の大会など、学校内外のさまざまなスケジュールに関わってくる問題です。計画や調整だけでも、相当な見直し作業が必要です。
9月入学への移行は、確かに「社会改革」(小池百合子・東京都知事)につながります。それには国や自治体はもとより、家庭も含めた「社会」の側にも、相当な負担を覚悟する必要があります。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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