全国学力・学習状況調査、先送りの発表

文部科学省は、4月16日に予定されていた2020年度の全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)を取りやめることを決めました。新型コロナウイルス感染症対策の影響を考慮してのことです。萩生田光一文部科学相は3月17日の記者会見で、「できれば中止という判断は避けたい」とも述べていました。先送りの理由とともに、改めて調査の意義を考えてみましょう。

3月の授業打ち切り、4月にも影響

全国学力調査は2007年度以来、毎年4月に実施されています。調査の目的は、(1)義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る(2)学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる(3)教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する……です。

対象が小学6年生と中学3年生なのは、それぞれの校種の最終学年だからです。調査によって学力に課題があれば、一人ひとりにしっかり確かな学力を付けさせてから、次の段階に進んでもらおう、というわけです。出題教科は国語と算数・数学ですが、3年に1度は理科(2012年度から)、英語(19年度から)も実施することにしています。20年度の4月16日には通常通り、国語と算数・数学が行われるはずでした。

しかし安倍晋三首相は2月27日、全国の小学校から高校までを、3月2日から春休みまで、一斉に臨時休校とするよう要請する方針を決断。文科省も都道府県を通じて、全国の市町村教育委員会や、私立学校を運営する学校法人などに通知しました。

文科省のまとめによると、3月16日段階で、公立学校の約99%、国立学校の全校、私立学校の約98%が休校しています。その間、宿題を課したり、登校を再開したりした学校もありますが、最大で約1か月の授業がなくなることになります。新学期に入っても、3月分の授業の補充や、学力の定着にも時間が掛かるうえ、先生方も対応に追われることを考慮して、4月の実施を取りやめることにしたものです。

格差拡大の心配で期待される「保護者調査」

また、2020年度の全国学力調査は、経年変化分析調査(英語4技能を含む)とあわせて、保護者調査も延期の予定になりました。とりわけ保護者調査は13年度、17年度に続く3回目です。5月11日~6月30日の間、経年調査を実施した一部の学校の保護者が対象です。注目されるのは、家庭の経済的格差や不平等の度合いを示す「社会経済的背景(SES)」を調べることです。

家庭の収入が高いほど、テストの点数も高くなる傾向にあることが、全国学力調査の分析からもわかっています。不利な家庭の子どもを多く抱える学校は、それだけ平均点も下がるわけです。一方、不利な状況にもかかわらず、平均点の高い「力のある学校(効果のある学校)」があることもわかりました。学力向上のためには、そんな学校を増やすことが必要です。そのための調査でもあるのです。

折しも新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、景気の先行きと雇用に不安が広がっています。それに伴って、家庭の経済的格差や、その影響による学力格差も、ますます拡大する心配があります。今回は全国学力調査の先送りが発表されましたが、保護者調査を含めた全国学力調査の重要性は、ますます高まっていると言えるでしょう。 

(筆者:渡辺敦司)

※2020年度全国学力・学習状況調査に関する文部科学省の通知
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/1411765_00002.htm

※全国学力・学習状況調査(文部科学省ホームページ)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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