大学を「学修者本位」に 文科省が指針案

人工知能(AI)の台頭に代表される通り、これからの世の中は予測困難な時代に突入しています。そうした時代を生き抜くためにも、大学教育には変化が求められています。中央教育審議会の大学分科会は先頃、「教学マネジメント指針」の案をまとめました。今後、文部科学省が正式に策定し、各大学に自主的な取り組みを促したい考えです。折しも主な入学年齢である18歳人口は減少を続け、各大学は生き残りに必死です。保護者世代の時に比べ、大学教育はますます様変わりしていくことでしょう。

履修科目の絞り込みも

大学には2017年度から、「三つの方針(ポリシー)」の策定が義務付けられています。

(1) 卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー=DP)
(2) 教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー=CP)
(3) 入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー=AP)

入学者受け入れの方針(AP)は高校生にとっても大学入試要項などでなじみがありますが、決して単独で策定されているものではありません。卒業後どんな人材として社会に送り出すか(DP)を想定したうえで編成した4年間の教育(CP)にふさわしい学生に入学してもらおう(AP)という考えが、そこにはあります。

さらに2018年11月の中教審答申は、各大学などがそのミッション(使命)に基づいて、学生が「何を学び、身に付けることができるのか」を明確にし、学修の成果を実感できる教育を行う「学修者本位の教育の実現」を打ち出しました。今回の指針案は、これを実現するためのものです。

具体的には、まず卒業認定・学位授与の方針(DP)を、卒業生に最低限備わっている能力の保証として具体的かつ明確に設定します。それに沿って授業科目を精選・統合し、履修する順序や履修要件を見直して、履修する科目も絞り込みます。GPA(単位当たりの成績平均値)など、学生が学修成果を具体的に把握・可視化できるような仕組みも導入します。さらに社会からの信頼と支援を得るため、大学としての成果を自発的・積極的に公表することも求めています。

学生にも責任と覚悟が不可欠

保護者世代の大学教育といえば、必修科目の他に選択科目を自由に選び、リポートや試験によって取得した単位を積み上げて卒業する、というのが一般的な姿だったことでしょう。しかし今や、一人ひとりの学生が「何を学び、何を身に付けたのか」が問われています。そうした教育の質を保証するための仕組みが、教学マネジメント指針なのです。

ところで今まで、何の説明もなしに「学修」という言葉を使ってきましたが、「『学習』じゃないの?」と疑問に思った人は少なくないでしょう。大学では「学修」が正しいのです。今も昔も大学教育は本来、単に授業を受けて「学習」していれば済むのもではなく、自主的な予習・復習時間も合わせての「学修」が求められるものです。

指針案も、冒頭で「学生自身が目標を明確に意識しつつ主体的に学修に取り組むこと、その成果を自ら適切に評価し、さらに必要な学びに踏み出していく自律的な学修者となることが求められている」とうたっています。予測困難な時代にあって、卒業後も常に学び続けていくためにも不可欠なことです。

「学修者本位」といっても、これからの学生には「学修」する者としての責任と覚悟が、ますます必要になります。決して受け身ではいられません。

(筆者:渡辺敦司)

※中教審 大学分科会(第152回) 配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/1422495_00001.html

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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