ノーベル賞の吉野彰さんから何を学ぶ?

今年のノーベル賞は、日本人として吉野彰・旭化成名誉フェローが化学賞を受賞しました。12月10日にスウェーデン・ストックホルムで開かれる授賞式まで、関連ニュースで盛り上がることでしょう。とりわけ吉野さんが化学に興味を持つきっかけとなった英国の化学者ファラデー(1791-1867)の『ロウソクの科学』(岩波文庫など)が、増刷になるほど注目を集めています。子どもたちに科学への関心を高めるため、吉野さんから何を学ぶべきでしょうか。

日常生活と関連付けて幅広い学びを

吉野さんに『ロウソクの科学』を薦めてくれたのは、小学校4年生の時の担任の先生だったといいます。改めて小さい時からの読書とともに、幅広い知的興味や関心を刺激してくれる学校という存在の重要性も認識したいと思います。

特に、来年度から小学校で全面実施となる新しい学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」を掲げ、実社会や日常生活との関連などをいっそう重視するとしています。学んだことがテストでしか生かされず、その後はきれいさっぱり忘れてしまう、というのでは何にもなりません。

新指導要領はまた、教科の中だけにとどまらない、教科横断的な学びを求めています。吉野さんは京都大学に入学して、2年間の教養課程は専門以外の知識を身につけようと、サークルで考古学に熱中したといいます。受賞会見でも「研究というのは専門的なことだけ考えても答えが出てこないので、できるだけ広い視野で、関係のない分野も含めて関心を持つことが大事だ。歴史学は研究開発にとって面白いツールになる」と話していました。

高大接続で「コンピテンシー」重視

吉野さんが受賞会見で、研究者には「柔軟性」と「執着心」の二つが必要だと述べていたのも示唆的です。近年はPISA(生徒の学習到達度調査)などで知られる経済協力開発機構(OECD)の提言などに影響され、初等中等教育(小・中・高校など)・高等教育(大学など)を問わず「コンピテンシー(資質・能力)」の育成に注目が集まっています。新指導要領も全教科等を共通する「資質・能力の三つの柱」((1)知識・技能(2)思考力・判断力・表現力等(3)学びに向かう力・人間性等)で整理していますし、大学でも、卒業時に社会で活躍できる人材像から4年間の教育や入試を導き出す「三つの方針」改革が求められています。研究に必要なコンピテンシーとして必要な「粘り強さ」は、新指導要領の下でも「主体的に学習に取り組む態度」の一環として評価することにしています。

吉野さんらの受賞理由として、リチウムイオン電池が環境問題に貢献することを挙げていたのも重要です。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は17ある目標の4番目に教育を掲げ、全体の目標達成に関わるものとして重視しています。新指導要領も総則で「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げています。

新指導要領の目玉である「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)により、子どもの具体的な興味・関心・意欲に寄り添った授業展開をはじめとした意図的・計画的な教育を行い、それを高大接続改革で高校から大学へとつなげることで、今後も第2、第3の吉野さんを輩出していってもらいたいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※学習指導要領「生きる力」(文部科学省ホームページ)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

※高大接続改革(同)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/index.htm

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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