「子どもの貧困対策」は対象家庭のためだけじゃない
政府の「子供の貧困対策に関する大綱」を5年ぶりに見直すため、内閣府の有識者会議が報告書をまとめました。この機会に、子どもの貧困対策について幅広い視野から考えてみましょう。
妊娠・出産期から切れ目ない支援など提言
子どもの貧困とは、衣食住にも事欠く「絶対的貧困」ばかりではありません。医療や学習・進学などの面でも不利な立場に置かれる「相対的貧困」の状態にある18歳未満の子どもの割合(子どもの貧困率)は、厚生労働省の調査によると2015年で13.9%となりました。2012年(16.3%)に比べれば改善したとはいえ、依然として7人に1人が貧困状態にあるのです。
貧困家庭に生まれた子どもが、大人になっても貧困から抜け出せないのが「貧困の連鎖」です。そうした連鎖を断ち切ろうと2013年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が制定され、それに基づいて2014年8月には「子供の貧困対策に関する大綱」も閣議決定されました。大綱はおおむね5年ごとを目途に見直すことになっており、今年6月の推進法改正も踏まえて、有識者会議が今後の在り方を検討していました。
報告書は、子育てや貧困を家庭のみの責任とせず、地域や社会全体で課題を解決するという基本方針の下、(1)親の妊娠・出産期から子どもの社会的自立までの切れ目のない支援(2)地方公共団体による取り組みの充実(3)支援が届かない、または届きにくい子ども・家族への支援……という視点を打ち出し、教育支援や生活支援、保護者の就労支援、経済的支援などの充実を提言しました。
「人のため」の強い思いを生かして
子どもの貧困対策は、対象となる世帯や個人のためだけではありません。日本財団などの推計では、このまま放置されると、貧困世帯に属する2013年時点で15歳の子どもたちが64歳になるまでに得る所得は22.6兆円、支払う税・社会保障の純負担は5.7兆円ですが、教育格差を改善すれば、所得を2.9兆円、税・社会保障を1.1兆円も増やすことができるといいます。社会全体にとっても、大きな便益があるのです。
もっと積極的な意義を考えてみましょう。有識者会議の委員である末冨 芳(かおり)・日本大学教授は会合で、生活困難層の子どもたちは自己肯定感が低いにもかかわらず「人のために力を尽くしたい」という気持ちが一般の子どもたちに負けず劣らず強いという、下関市が行った生活実態調査を紹介しました。EU諸国では子どもの貧困を「子どもの幸せ(ウェルビーイング)」が満たされていない状態だと捉え、すべての子どものウェルビーイングの実現を目標にしているといいます。
折しも新しい学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)による授業改善を打ち出し、大学入試改革を含めた高大接続改革では「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」の育成・評価も求めています。貧困経験を経た子どもたちが学力を回復し、個人のチャンスを広げるだけでなく、経験に基づいて「主体的」に多様な意見や見方を示し、「対話」や「協働」を通して集団での学びをより豊かなものとし、「深い」課題解決につながることも期待できます。社会全体にも子ども全体にとってもメリットのある、総合的な対策になってもらいたいものです。
(筆者:渡辺敦司)
※内閣府ホームページ「子供の貧困対策」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/index.html
※日本財団ホームページ「子どもの貧困対策」
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/ending_child_poverty