2040年の社会と科学技術はこうなる!?

人工知能(AI)が人間の能力を追い越す「シンギュラリティー(技術的特異点)」が2045年にも到来すると言われています。現在の子どもたちは、そんな社会に出ていかなければなりません。
では、そのころの社会や科学技術は、どうなっているのでしょうか。あるいは、どうあるべきなのでしょうか。折しも夏休み。未来に思いをはせてみてはいかがでしょうか。

望ましい未来の社会像を示す

文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、このほど、「科学技術予測調査」の結果(速報版)を発表しました。科学技術政策の議論に資するため、望ましい社会の未来像を描くとともに、そのための現在の課題を探ろうと1971年から約5年ごとに実施しているもので、今回で11回目となります。ターゲットイヤーとして2040年、調査としては2050年までを展望しているといいますから、まさにシンギュラリティーの時代ということになります。

検討の結果、未来像を(1)変わりゆく生き方(Humanity)(2)誰一人取り残さない(Inclusion)(3)持続可能な日本(Sustainability)(4)不滅の好奇心(Curiosity)……の4つの価値に集約しています。
そこでは、▽複数の仕事をこなすような「誰でもクリエーター社会」や、リアルとバーチャルの両方の体験を有する「AND人間」(1)▽職場や地域のしがらみから解放された「脱空間社会」や、地域を越えて働いたり学んだりする「ユビキタス(偏在)社会」(2)▽長期的視点で対策を講じる「想定外を吸収できる社会」や、大量消費サイクルから抜け出して幸福感の形成を価値とする「脱GDP(国内総生産)社会」(3)……といった多様な社会を展望しています。

もちろん、これらは「望ましい社会」であって、その実現には各方面での努力が必要です。そして、それを担うのは、今まさに学校で学んでいる子どもたちだ、ということができるでしょう。

担う人材の育成は新指導要領で

4つの価値を眺めていると、(3)はまさに世界的な課題となっている「持続可能な開発目標(SDGs)」に当たります。さらに、(1)(2)(4)も含めて、そんな価値を実現できる人を育てるのが、新しい学習指導要領だと言えるでしょう。

指導要領はおおむね10年間実施されることから、今回の改訂(2017~18年)では、どの校種や教科・科目であっても、そこでの学びを通して(1)知識・技能(2)思考力・判断力・表現力等(3)学びに向かう力・人間性等……の「資質・能力の三つの柱」をバランスよく育成することにしています。学校時代にそうした資質・能力を十二分に身につけた子どもたちが社会の中心を担うことになれば、先に見たような未来像も実現できるかもしれないと期待が持てます。

逆に言えば新指導要領の下での学校教育や子ども学びは、そんな未来像も視野に入れた上で行っていくことが求められます。もう「いい学校、いい会社」に行けば将来が安泰だという時代ではありません。一人ひとりが未来を創っていく必要があるのです。

夏休み中のさまざまな学習・体験活動にも、そうした将来につながる資質・能力を育む芽が必ずあるでしょう。残りの期間を有意義に過ごしてもらいたいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※「第11回科学技術予測調査 ST Foresight 2019(速報版)」の公表について
http://www.nistep.go.jp/archives/41194

※学習指導要領「生きる力」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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