センター試験のネックは「解き方」!?

全文を読まず、設問ごとに関連部分だけ

 東京大学の「大学発教育支援コンソーシアム」(高大接続研究開発センター高大連携推進部門CoREFユニット)は、17都道府県の教育委員会など26団体(2018年度)と「新しい学びプロジェクト」を実施しています。このほど行われた報告会のパネルディスカッションで、白水(しろうず)始教授がセンター試験の「解き方」に関する調査 結果を発表しました。

用いたのは、小池昌代さんの小説『石を愛(め)でる人』に関する2015年度センター試験の国語(第2問)。全文4,659字、問題用紙で6ページにわたる長文で、ところどころに傍線を引き、6つの問いに答えさせるものです。実は、このうち言葉の意味を除いた傍線部分に関する5つの問いの文章を並べてみると、「石」を介して登場人物の「わたし」と「山形さん」の関係が変化していくことを捉えてほしい……という出題意図が透けて見えます。

しかし、関東圏内3校の高校生10人に、実験者と対話をしながら解いてもらったところ、最初に問題文を全部読んだ生徒は一人もいませんでした。ほとんどが設問を見ながら関連部分だけ読んで、消去法などで解答していました。そのため「石」との関係や場面変化はもとより、「わたし」が女性か男性かさえ意識していない生徒もいました。そんな表面的な問題でも、多肢選択式なら結構、正解できてしまうのです。

受験を社会につながる「真の学び」へ

確かにテストで点数を取るためだけなら、それでよいのかもしれません。しかし、受験は単なるゲームではありません。あくまで大学教育を受けるに足る学力を測定しようというものです。もっと言えば、高校教育で身に付けた資質・能力をもとに、大学教育でさらに伸ばし、社会で活躍できる力にまで育てたい……というのが、「高大接続改革」でも改めて確認された大学入試の意義であるはずです。

白水教授らの研究グループは、2005年度の東大入試で出題された同じ作品でも調査 を行いました。ただし引用された部分は2,056字で、解答は記述式です。解いてもらったのは私大の大学院生8人ですが、そのうち7人が全文を読んで解答しました。それでも先のセンター試験の問題になると、全文を読んだのは8人中3人だけでした。つまり出題の仕方によって受験者は、文章の読み方さえ変わってしまうのです。
ましてや普段、センター試験「対策」を意識しすぎた授業や勉強をしていれば、いつまでたっても文章を本当の意味で読もうとしなくなります。これは、単に文章が読めないという以上の深刻な危機かもしれません。だからこそ同プロジェクトでは、知識構成型ジグソー法という学習方法の一つを使って、新しい学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」の授業研究を行い、各教科等で深い読みや理解を促そうとしています。

センター試験は、2020年度から「大学入学共通テスト」に衣替えされます。学校での「真の学び」を社会につなげるためにも、この機会にぜひ、受験に臨む姿勢や学校での授業の在り方を見直したいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※新しい学びプロジェクト 2018度報告会
http://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/17509

※2015年度大学入試センター試験 国語
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00005012.pdf&n=2701-0101+kokugo.pdf

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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