社会参画・変革力、主権者教育の課題に!?

選挙権年齢に続き、成年年齢自体も2022年4月から18歳に引き下げる改正民法が、昨年6月に成立しました。学校教育でも、高校卒業までに社会人としての判断力や行動力を身に付けさせる「主権者教育」が急務となっています。もっとも、若い世代に対して社会に参画する力を育成することは、国内的な事情だけではなく、国際的に共通する課題でもあります。そんな中で注目されそうなのが、経済協力開発機構(OECD)が提唱する「Agency」(エージェンシー)です。何だか難しそうですが、どういうものなのでしょう。

近未来に向けた資質・能力のカギ

エージェンシーに関しては、昨年末に開かれた文部科学省の「主権者教育推進会議」で、同省教育課程課の白井俊・教育課程企画室長が紹介しました。白井室長の前職は、OECD教育・スキル局アナリストです。
OECDは現在、近未来の教育の在り方を世界に提案する「Education 2030」プロジェクトの最終的な詰めの作業に入っています。そこでは、子どもたちに必要なコンピテンシー(資質・能力)を身に付けさせるための「2030年に向けた学習枠組み(Learning Framework 2030)」を提唱しています。知識(Knowledge)・スキル(Skills)・態度および価値(Attitudes and Values)が絡み合って形成するコンピテンシーによって、(1)新しい価値を創造する力(2)対立やジレンマを調停する力 (3)責任ある行動をとる力——という「変革を起こす力のあるコンピテンシー」を育て、不確実な未来に向かっていける「ウェルビーイング(well-being:健やかさ・幸福度)」を達成しようという構想です。この(1)~(3)を発揮させるのが、学習者のエージェンシーだと位置付けられています。
白井室長は、エージェンシーを「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」と説明しました。そこには、▽将来的な目標を見据える力▽批判的思考力▽現状に疑問を持つ力……などが含まれます。エージェンシーは人や社会の関係性の中で往還的・多面的に育つものであり、人工知能(AI)による代替は困難なものだといいます。

教育基本法や指導要領にも通じる

こうしたエージェンシーの育成では、何も改めて特別な教育を導入する必要はありません。教育基本法には「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」(2条3項)が定められています。新しい学習指導要領でも「子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすること」(指導要領解説・総則編)が求められており、それは「本来、我が国の学校教育が大切にしてきたこと」(同)でもあるからです。

言うまでもなく教育は、教科で学んだ知識を基にテストでいい点を取り、上級学校への進学や就職のための力を付けることにとどまりません。「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」(教基法1条)が究極の目的です。そのためには白井室長も指摘したように、子どもたち同士はもとより先生も含め、学校全体でエージェンシーを発揮することが期待されます。

(筆者:渡辺敦司)

※主権者教育の推進(文部科学省ホームページ)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/1369165.htm

※主権者教育推進会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/142/index.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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