新指導要領でも「教えて考えさせる」が重要!

年が明け、小学校で新学習指導要領が全面実施となる2020年度まで、あと1年余りとなりました。英語の教科化やプログラミング教育の必修化などが注目されますが、各教科の授業を含めた教育活動の全体を共通の「資質・能力の三つの柱」(<1>知識・技能 <2>思考力・判断力・表現力等 <3>学びに向かう力・人間性等)で教科横断的に育成することを目指すという大きな目標を忘れてはいけません。
そうした指導要領の趣旨を実現するために、学校の先生は、どう授業を改善すればいいのでしょうか。

ALは「特定の型」ではなく

歴史的に多くの大学が集まる京都では、全国でいち早く「大学コンソーシアム京都」が設立され、20年以上の実績を積み重ねています。とりわけ高大連携・接続にも力を入れており、高校と大学の関係者などが一堂に会した「高大連携教育フォーラム」も昨年12月で16回を数えました。そこで、市川伸一・東京大学大学院教授が基調講演を行いました。

市川教授といえば、現行指導要領の改訂(2008~09年告示)から中央教育審議会の教育課程部会に携わり、今回の改訂(16~17年告示)年では同部会の下に置かれた教育課程企画特別部会の委員や中学校部会の主査も務めるなど、議論をリードしてきました。
新指導要領では、アクティブ・ラーニング(AL)が注目を集めています。これに関して市川教授は、企画特別部会の論点整理(2015年8月)を引きながら、「特定の型を普及させるものではない」と注意を促しました。指導要領ではALという用語を使わず「主体的・対話的で深い学び」と置き換えていますが、これはカタカナ語を極力避けるという法令上の方針に沿っただけでなく、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」という三つの要件を満たす学習になっていることを求めるという姿勢を明確にするものだった、というのです。

「新タイプの分からない授業」にしないために

ALというと、とにかく児童生徒をアクティブ(活動的)にすることに意識が向きがちになります。しかし、認知心理学の研究者として「教えて考えさせる授業」を提唱してきた市川教授は、詰め込みや教え込みを「旧タイプのわからない授業」とする一方で、教えずに考えさせる授業を「新タイプのわからない授業」だと批判。基礎知識をきちんと教えたうえで、思考・表現を通して深い習得を促すのが「教えて考えさせる授業」だと解説しました。
こうした市川教授の見解は、2008年1月の中教審答申で「教えて考えさせる指導を徹底」するという記述などに反映されており、16年12月の答申でも「必要な知識・技能を教授しながら、それに加えて、子供たちの思考を深めるために発言を促したり、気付いていない視点を提示したりするなど」の学習が展開されてこそ「主体的・能動的な活用・探究の学習を展開することができる」と説明されています。

とりわけALは、高大接続改革とも関わって、高校の先生たちに急速に関心が高まっています。フォーラムの分科会では、高校や大学の関係者が、各教科などで生徒にどんな資質・能力を具体的に育成すべきか、熱心な議論が交わされました。高校で着実に培われた深い理解を大学につなげ、さらに深められるような授業展開を、今後ますます期待したいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※高大連携教育フォーラム
http://www.consortium.or.jp/project/kodai/education-forum

※2016年12月の中教審答申
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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