「考える力」って、そもそも何!?

2021年1月から実施される「大学入学共通テスト」の第2回試行調査(プレテスト)が行われました。共通テストは、現行の大学入試センター試験に比べ、思考力・判断力・表現力を本格的に問おうとするものです。これに備えて、各高校などでも「考える力」の育成に力を入れています。ところで「考える力」という言葉はごく普通に使われますが、具体的にどういうものなのでしょうか。そんな疑問に応える公開シンポジウムが、まさにプレテスト初日の2018年11月10日、東京都内で行われました。

一人で考える「合理性」には限界

公開シンポの名称は「〈考える力〉とは何か?—思考の教育における哲学系諸学の役割」、主催は日本学術会議の哲学委員会哲学・倫理・宗教教育分科会……というと何だか難しそうですが、心理学や人工知能(AI)、教育哲学といった多方面から「考える力」は何かを明らかにしようとしたものです。
「考える力」を発揮すれば、人は合理的な結論を導き出せそうなものです。ところが京都大学大学院の楠見孝教授によれば、そもそも心理学は「人の思考における合理性の限界」に注目する学問です。一方で個人の合理性の限界を、他の人たちとの協調作業で克服するのが「集合的合理性」だといいます。人は他者と協働することが必要な存在だ・・・・・・と考えれば、大学入試改革をはじめとした高大接続改革で「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」の育成を重視するのも、うなずけます。

最近はビジネスでも、「クリティカル・シンキング(批判的思考)」が必要だと言われています。批判的思考には、思考スキル(技能)が不可欠です。しかし楠見教授は、思考スキルだけを訓練するよりは、具体的場面で教えるほうが効率は高いと指摘しました。各教科の授業や総合的な学習の時間で探究活動を行ってこそ、他の領域でも活用(転移)できる力になるというのです。

「創造性」を持つAIも「想定外」に対応できず

人間の「考える力」を脅かす存在が、AIです。AI研究の第一人者である松原仁・公立はこだて未来大学教授によると、今やコンピューター将棋は、人間の専売特許と思われていた「創造性」を発揮して、人間が思いつかなかった手を「考え」出しています。しかし物事の「意味」が理解できず、動機付けも持たないAIには、想定外の事態への対応は苦手で、枠組みが変わってしまうと対応できなくなるといいます。そうしたAIには不得手なことが、人間ならではの「考える力」ということになるわけです。
推論には帰納法と演繹法がある、ということを高校の倫理などの授業で習った人も多いでしょうが、山内清郎・立命館大学准教授は、他に「仮説的推論(アブダクション)」を挙げました。たくさんのケースを積み重ねなければならない帰納法を日常生活で行うのはとても大変ですが、ある程度のケースから仮説として「こうだろう」と判断して行動することは日常的によく行っていることであり、一定の妥当性もあるといいます。

このように「考える力」と一口に言っても、実に深い捉え方があります。新しい学習指導要領でも、思考プロセスなどを想定して各教科等の改訂を行っています。学校の授業でも、「考える力」とはどういうもので、どういう授業を行えば児童生徒に考える力を身に付けさせられるのかを深く追究して、今後の教育に臨んでほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※〈考える力〉とは何か?—思考の教育における哲学系諸学の役割
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/269-s-1-2.pdf

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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