就活ルール見直しで大学教育への影響は?

 大学生などの新卒就職をめぐり、日本経済団体連合会(経団連)が定めてきた「採用選考に関する指針」を廃止し、政府が代わって就職活動ルールを策定することになりました。今後、学生の就職活動と、教育に与える影響はどうなるのでしょうか。

「協定」破り横行、その後も曲折続き

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は、9月3日の定例記者会見で「経団連が指針を定め、日程の采配をしていることには違和感を覚える。現在の新卒一括採用についても問題意識を持っている」と発言。10月9日の会長・副会長会議で、正式に指針廃止を決定しました。これを受けて同15日に政府の関係省庁連絡会議が開かれ、2021年度以降に入社する者(今年度の大学2年生など)からは内閣官房が一定のルールを策定することを確認しました。
 就活ルールは、かつて旧経団連(経済団体連合会)に統合される前の日経連(日本経営者団体連盟)が1953年に大学側と「就職協定」を結んだことに端を発します。しかし紳士協定にとどまったため、協定破りが横行。1996年、業を煮やした根本二郎会長(日本郵船会 長、中央教育審議会委員)が協定としては廃止を決断し、「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」に衣替え。2002年の統合によって新経団連に引き継がれ、2013年から現行の指針となりました。
この時には第2次安倍政権が学業優先の立場から日程の後ろ倒しを要請し、2016年度入社以降は(1)会社説明会(広報活動)は3年生の3月から、(2)採用選考は4年生の8月から、(3)内定は10月から…になったのですが、早くも2015年には2017年度入社から(2)を6月に前倒しする見直しを行い、現在に至っていました。背景には、経団連の会員でない企業が指針に縛られずに早期に内定を出すなどしたため、会員企業の不満が高まっていたことがあります。

大学教育と人材育成を考えて

 就活ルールをめぐっては、早期に優秀な人材を確保したい企業側の思惑と、十分な学生生活を確保したい大学側との思惑が、せめぎ合うことになります。あまりにも活動日程が早すぎると、なかなか内定を得られない学生の活動長期化も含め、学業に支障を来します。
 文部科学省の調査でも、今年4月以前に採用選考を開始した企業が計52.5%(前年比4.2ポイント増)と半数を超えました。景気回復基調と人手不足を反映して、早期に人材を確保したい思惑が働いたものとみられます。

忘れてはならないのは、あまりにも日程が早期化することは、大学教育の否定につながるということです。企業が3年生のうちに内定を出すということは、3年間に満たない大学教育の成果を評価したということになります。大学では4年生になって卒業論文・研究に取り組むことで能力がぐんと伸びると言われていますが、そうした点は昔からあまり評価されてきませんでした。
 しかし、今や企業はあまり人材育成にコストを掛けられず「即戦力」を求める傾向も強まっていますし、グローバル化対応をはじめとして、大学教育を強化する期待が高まっています。折しも大学教育をめぐっては、2040年を見越した在り方の検討が進められています。
 これからの社会を担う高等教育人材を、どう育成していくべきか。採用慣行の見直しも含め、官民を挙げて真剣なルールづくりが求められます。

(筆者:渡辺敦司)

※経団連 記者会見における会長発言
http://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/

※2018年度 就職・採用活動に関する調査結果について(速報版)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/1410009.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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