「俯瞰(ふかん)力」、大学教育でも注目!

 「俯瞰(ふかん)力」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。俯瞰とは、高いところから広い範囲を見下ろすことで、鳥瞰(ちょうかん)(鳥のように空から見下ろすこと)とほぼ同じ意味です。物事や自分の思考を客観的・全体的に眺めることができる力だと言えばよいでしょうか。
ビジネススキルとして注目されていますが、これが大学教育にも関わってくるとしたら、受験生にとっても無視できないでしょう。しかし、心配することはありません。既に高校までの教育で、そうした力の育成が視野に入っているからです。

2040年の在り方を検討する中で

 「俯瞰力」は、2040年の社会を見据えた大学教育の在り方を検討している中央教育審議会が年末に向けた答申に盛り込むことが検討されています。そこでは、今後の予測できない時代に社会に出ようとする学生を「専攻分野についての専門性を有するだけではなく、思考力、判断力、俯瞰力、表現力の基盤の上に、幅広い教養を身に付け、高い公共性・倫理性を保持しつつ、時代の変化に合わせて積極的に社会を支え、あるいは社会を改善していく資質を有する人材」(21世紀型市民)として育てる必要性があるとしています。

 ここでは「思考力、判断力、俯瞰力、表現力」としていますが、俯瞰力を抜いた「思考力・判断力・表現力」なら、学校教育法30条2項で「学力の3要素」の2番目(他の二つは①知識・技能③主体的に学習に取り組む態度)に掲げられているものです。小・中・高校で育成を目指すだけでなく、高大接続改革の一環としての入試改革でも、3要素すべて(③は「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」=主体性・多様性・協働性と言い換え)を評価して、入学者を選抜するとしています。大学では、この思考力・判断力・表現力の中に「俯瞰力」も入れようというわけです。

新指導要領でも「メタ認知」

 同じような発想が、実は、小・中・高の新しい学習指導要領にも反映されています。心理学の専門用語で「メタ認知」と呼ばれるものです。自分の感情や行動、思考力や学び方を、もう一人の自分が俯瞰して眺め、コントロールするような力のことです。
 指導要領の改訂を提言した中教審答申(2016年12月)では、これを、学力の3要素を発展させた「資質・能力の三つの柱」のうち、3番目の「学びに向かう力・人間性等」(他の二つは①知識・技能②思考力・判断力・表現力等)の中に含めています。

 勉強は、教えられたことを丸覚えしているだけでは、社会や日常生活で生きて働く力にはなりません。また、自主的に勉強するにも、自分の行動や感情をコントロールすることが不可欠です。学びの全体を捉える視点を持てれば、学んだことを教科学習の狭い枠に閉じ込めず、さまざまな課題に発展させて幅広く考えることもできます。学校でさまざまな教科はもとより、集団生活を通して学んでいるのも、メタ認知を育てるうえで重要です。

 大学でも、単に学部・学科で単位を取って卒業したというだけでは、社会で役立つ力が身に付いたという保証にはなりません。今後、大学教育を通して「何ができるようになったか」が、ますます問われる時代になります。人工知能(AI)などの技術革新が急速に進展する時代にあって、「新たな社会を(けん)引する能力」を発揮するためにも、俯瞰力をはじめとした人間ならではの幅広い能力を、小・中・高・大・社(社会)を通じて、意識的に身に付ける必要があると言えるでしょう。

(筆者:渡辺敦司)

※中教審 将来構想部会(第9期~)(第25回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/1408774.htm

※同 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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