A・B問題の統合、どう受け止める?

文部科学省の「全国学力・学習状況調査」(以下、全国学力調査)は毎年、小学6年生と中学3年生を対象に、国語と算数・数学を出題してきました。これまでは両教科ともA問題(主として「知識」に関する問題)とB問題(主として「活用」に関する問題)に分けていましたが、2019年度からはA・B問題を一本化して出題することになりました。どういうことでしょうか。

習得・活用をしっかり、探究にもつなげる

同調査は2007年度の開始以来、小中学生の学力や学習状況を客観的に把握し、学校での指導や教育委員会等での施策の改善に役立ててもらうことで、義務教育の水準の維持と向上に大きく役立ってきました。都道府県の格差も、近年では徐々に縮まっています。

国語と算数・数学の出題については、土台となる基盤的な事項に絞ったうえで、▽身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など(A問題)▽知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などにかかわる内容(B問題)……を出題してきました。これにより、学習指導要領が重視する「習得・活用・探究」という学習過程のうち「習得」と「活用」の状況がしっかり把握され、学力の着実な定着が図られるとともに、総合的な学習の時間を中心とした「探究」にもしっかりとつなげる授業改善が進んできました。
一方、8月に開かれた「全国的な学力調査に関する専門家会議」に示された文科省の文書では、児童生徒のつまずきを把握するうえでは「知識」と「活用」とを一体的に問うことが有効な場面もあり、A・Bの問題区分が絶対的なものではなくなりつつあると指摘しています。

一体的育成への「メッセージ」

今年度から小中学校で移行措置(一部先取り)に入った新しい学習指導要領(全面実施は小学校が2020年度から、中学校が21年度から)では、生きて働く「知識・技能」、未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」という三つの柱に基づいて資質・能力を再整理したうえで、三つの柱が相互に関係し合いながら育成されるものという考え方を取っています。
そこで全国学力調査も、そうした新指導要領の考え方を先取りする形で、2019年度から出題区分の見直しをしようと考えたわけです。A・B問題に各1コマを充てていた調査時間が短縮できるメリットもあります。

全国学力調査をめぐっては当初、ともすれば「習得できてはじめて活用ができる」という受け止めから、まずA問題に力を入れる傾向も見られました。しかし習得・活用・探究、あるいは資質・能力の三つの柱は本来、一体的に育成されるべきものです。文科省の文書でも、A・B問題の統合が指導要領の内容等を正しく理解するよう促し、重視される力を子どもたちに身に付けさせるといった「国としての具体的なメッセージ」を示すことになるとしています。
もちろん、知識の習得が軽視されたわけではありません。新たな出題形式でも、基礎的な知識・技能は小問の一つとして、しっかり問われます。ただ、単なる知識丸覚えにとどめず、日常生活などに活用できる力として高める必要があることを、忘れてはいけません。

(筆者:渡辺敦司)

※全国的な学力調査(文科省ホームページ)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/

※全国的な学力調査に関する専門家会議 第7回(8月22日)配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/130/shiryo/1408240.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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